01/04/2018 09:08:04 AM

フーバー大統領が語る「誰があの戦争を始めたのか」。

《草思社 書評案内より》

『裏切られた自由 フーバー大統領が語る第二次世界大戦の隠された歴史とその後遺症 上・下』ハーバート・フーバー著/ジョージ・H・ナッシュ編/渡辺惣樹 訳/草思社

 本書は、第31代アメリカ大統領ハーバート・フーバー(任期1929~33)が第二次世界大戦の過程を詳細に検証した回顧録です。第二次世界大戦とは何だったのか――。従来の見方とは真っ向から対立する歴史観をもつ本書は長い間、公にされませんでしたが、2011年に米国フーバー研究所から刊行され話題を呼んでいます。さまざまな情報にアクセスできたアメリカの政治指導者が、20年の歳月をかけて完成させた第一級の史料です。

◇『裏切られた自由』より引用◇

《本書では1941年以前の対日関係を詳しく記すことを目的としていない。しかし、我が国が戦争に突入することになった直接の原因に日本がなっている以上、真珠湾攻撃に至るまでの経緯を書かないわけにはいかない。アメリカ政府は(対日交渉の経緯を)国民に隠していた。そしてその後の教育でも、何があったかの歴史の真実を教えていない。だからこそ、対日交渉の経緯はしっかりと書いておかなくてはならない。》

《ナチス理解に役立ったのは、ヒトラーの右腕である陸軍元帥ヘルマン・ゲーリングとの会見である。……ゲーリングは私にチェコスロバキアの地図を示して、この形が何かに似ていないかと尋ねた。何も思い浮かばないでいるとゲーリングは、「ドイツに突きつけられた矢尻だ。我がドイツの体に突き刺さっている」と説明した。》

《いま(開戦時)二人の独裁者――ヒトラーとスターリンが死闘を繰り広げている。二人はイデオロギーに凝り固まった夢想家であり、兄弟のようなものである。……我が国(アメリカ)は防衛力をしっかりと整備し、両者の消耗を待つべきである。……我が国の掲げる理想にもかかわらずスターリンと組むことは、ヒトラーと同盟を組むことと同じであって、アメリカ的理念への叛逆である。》

《国民も議会も我が国(アメリカ)の参戦に強く反対であった。したがって、大勢をひっくり返して参戦を可能にするのは、ドイツあるいは日本による我が国への明白な反米行為だけであった。ワシントンの政権上層部にも同じように考える者がいた。彼らは事態をその方向に進めようとした。つまり我が国を攻撃させるように仕向けることを狙ったのである。》

《ハルは自身の回顧録の中で、ここ(本書)で記した日本政府との交渉の模様をほとんど書いていない。そして交渉についてはただ否定的に書いている。……その文章には真実がほとんど書かれていない。》

《近衛(首相)の失脚は二十世紀最大の悲劇の一つとなった。彼が日本の軍国主義者の動きを何とか牽制しようとしていたことは称賛に値する。彼は何とか和平を実現したいと願い、そのためには自身の命を犠牲にすることも厭わなかったのである。》

《ルーズベルト氏は「非帝国化構想」を持っていた。彼の標的はドイツ、イタリア、日本だけではなかった。彼はイギリス、フランス、オランダの非帝国化を目論んでいた。そうでありながら、彼の構想には一か国だけ例外があった。巨大できわめて攻撃的な帝国ソビエトであった。》

《あの(第一次世界大戦・戦後の)経験を踏まえればわかるように、アメリカには26もの民族がいるヨーロッパにも、それ以外の地域にも、自由や理想を力で押しつけることはできない。(そうしたことができると思うのは)狐火を見るようなものだ。そんな怪しい理想の実現のために再び若者の命を犠牲にしてはならない。》

《私は、日本との戦いは狂人[ルーズベルト]が望んだものだと言うと、彼[マッカーサー]はそれに同意した。》

《日本に対して原爆を使用した事実は、アメリカの理性を混乱させている。……原爆使用を正当化しようとする試みは何度もなされた。しかし、軍事関係者も政治家も、戦争を終結させるのに原爆を使用する必要はなかったと述べている。》

《本書執筆にあたって役立ったのは、収集した多くの資料である。第一次世界大戦が勃発した頃、フーバー研究所図書館(スタンフォード大学内)を発足させた。現在は250万点以上の貴重な文書、講演録、書籍、日記、パンフレット、会見記録、各国語による条約文書を所蔵している。……本書の準備に20年以上を費やしたが、各国語で書かれた文書を入念にチェックする必要があった。》

ハーバート・フーバー(Herbert Hoover)
1874年アイオワ生まれ。スタンフォード大学卒業後、鉱山事業で成功をおさめ、ハーディング大統領、クーリッジ大統領の下で商務長官を歴任、1929年~1933年米国大統領(第31代)。人道主義者として知られ、母校スタンフォードにフーバー研究所を創設。1964年死去。

ジョージ・H・ナッシュ(George H. Nash)
歴史家。ハーバード大学で歴史学博士号取得。2008年リチャード・M・ウィーヴァー賞受賞(学術論文部門)。フーバー研究の第一人者として知られる。著者に“Herbert Hoover and Stanford University”他。

渡辺惣樹(わたなべ・そうき)
日本近現代史研究家。北米在住。1954年静岡県下田市出身。77年東京大学経済学部卒業。30年にわたり米国・カナダでビジネスに従事。米英史料を広く渉猟し、日本開国以来の日米関係を新たな視点でとらえた著作が高く評価される。著書に『日本開国』『日米衝突の根源1858-1908』『日米衝突の萌芽1898-1918』(第22回山本七平賞奨励賞受賞)『朝鮮開国と日清戦争』『アメリカの対日政策を読み解く』など。訳書にマックファーレン『日本1852』、マックウィリアムス『日米開戦の人種的側面 アメリカの反省1944』など。

http://www.soshisha.com/book_wadai/43freedom/index.html

《草思社 書評案内より》

『誰が第二次世界大戦を起こしたのか: フーバー大統領『裏切られた自由』を読み解く』渡辺惣樹 著/草思社

 本書は、第31代アメリカ大統領ハーバート・フーバー(任期1929~1933)の大著『裏切られた自由』を翻訳した渡辺惣樹氏が、同書の読みどころを紹介しながら、新解釈の「第二次世界大戦史」を提示する本です。『裏切られた自由』はフーバーが20年の歳月をかけて第二次世界大戦の経緯を詳細に検証した記念碑的な歴史書で、日本語版の上巻が本書と同時に刊行されました。この大著を翻訳した著者・渡辺氏は北米在住、日本開国以来の日米関係を新たな視点でとらえた著作群が高く評価されている近現代史研究家です。2013年に小社より刊行された『日米衝突の萌芽1898-1918』で第22回山本七平賞奨励賞を受賞しています。

 アメリカが全体主義国と戦った「正義の戦争」という従来の大戦史観とはまったく異なる視点から第二次世界大戦を記述したフーバー元大統領ですが、渡辺氏は「フーバーは自身の感情を抑え、可能なかぎり『資料に語らせる』ことを心掛けて『裏切られた自由』を書き上げた」と書いています。世界各国の政治指導者、また軍関係者とも直接やりとりできる立場にいたフーバーの記録は第一級の史料と呼ぶにふさわしい価値があります。本書はその『裏切られた自由』をより深く理解するための格好の解説書であり、同時に、同書の克明な記録をもとに「始まりも終わりも腑に落ちないことばかり」(本書より)だった第二次世界大戦の謎に迫る意欲作でもあります。

 第二次世界大戦をめぐる数々の疑問、たとえば、なぜあのタイミング(1939年9月)で大戦が始まったのか、なぜアメリカは恐怖政治の首魁スターリンと手を結んだのか、なぜ日本側の必死の対米和平交渉は実らなかったのか、そして、二度目の世界大戦という悲劇的な事態を招いた最大の責任は誰のどのような意思決定にあったのか――。こうした疑問に本書は明快な答えを出しています。その答えは、ぜひ本書および『裏切られた自由』をお読みいただきたいのですが、間違いなく言えるのは、フーバーの提示した論点に触れずして第二次世界大戦を語ることはもはやできない、ということです。これまでの歴史認識にラディカルな変更を迫る一冊です。
(担当/碇)

渡辺惣樹(わたなべ・そうき)

日本近現代史研究家。北米在住。1954年静岡県下田市出身。77年東京大学経済学部卒業。30年にわたり米国・カナダでビジネスに従事。米英史料を広く渉猟し、日本開国以来の日米関係を新たな視点でとらえた著作が高く評価される。著書に『日本開国』『日米衝突の根源1858-1908』『日米衝突の萌芽1898-1918』(第22回山本七平賞奨励賞受賞)『朝鮮開国と日清戦争』『アメリカの対日政策を読み解く』など。訳書にマックファーレン『日本1852』、マックウィリアムス『日米開戦の人種的側面 アメリカの反省1944』など。

http://www.soshisha.com/book_wadai/books/2277.html

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