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無気力国家日本が、世界的にも極めて珍しい海洋政策として沿岸12カイリ内であるのに国連海洋法条約発効後も公海としている津軽海峡、宗谷海峡、対馬海峡、大隅海峡。領海法を改正し、主権を回収すべきです。

《【正論】津軽海峡を全面領海にして守れ 東海大学教授・山田吉彦》
2013.11.05 産経新聞

 尖閣諸島をはじめとする東シナ海は目下、日本の海洋安全保障の上で最大の焦点である。だが、北方海域および日本海の情勢も予断を許さない。今年7月、中国とロシアは日本海で共同軍事演習を行った。中国の北海艦隊はその後、日本海を縦断し宗谷海峡を経由して太平洋へと向かい、日本を牽制するように本国へ帰航している。防衛省関係者によると、ロシア海軍の動きも激しく、今年は北方海域に姿を現す艦艇数が昨年の2倍に増加しているという。

■ 中国艦船の示威になす術なし 

 日本海の入り口に当たる宗谷、津軽、対馬の3海峡を通過する外国船の数も増えている。とりわけ津軽海峡は気がかりだ。

 津軽海峡を東西に通航する船舶は多い。2009年にここを経由した国際航路のコンテナ船の数だけでも1798隻に上る。韓国の釜山、中国の青島、ロシアのウラジオストクなどの港から北米へと至る最短航路だからだ。

 日本は1977年に定めた領海法で、沿岸から12カイリ(約22キロ)の領海幅を設けている。しかし、宗谷海峡、津軽海峡、大隅海峡、対馬海峡東水道、対馬海峡西水道の5海峡だけは、領海幅を3カイリ(約5・6キロ)に設定して、海峡の中央部を公海としている。

 公海では日本の国家主権が適用されない。航行中の船で起きた犯罪は、船籍が置かれている国が管轄することになる。他国の海軍の行動を制限することもできない。艦船が示威行為に及んだとしても抗議すらできないのだ。

 2000年、中国海軍の艦船がわが国を挑発するように津軽海峡を一往復半して通り過ぎ、08年にも4隻の艦船が通過した。公海上であることから、わが国はこうした行動になす術もなく、黙って眺めているほかなかった。

 外務省は、「国際交通の自由を保護するため」これらの海峡の中央部を公海としている、としている。だが、他国の海峡の例を見ると、どうも様子が違う。

■ マラッカは3カ国が領海に

 インドネシア、マレーシア、シンガポールに挟まれたマラッカ海峡は、年間9万隻余の船舶が通る海上交通路(シーレーン)の要ながら、沿岸3カ国は領海に組み入れている。国際的に重要だからこそ、沿岸国が責任を持って管理する必要があるとの判断である。国際海事機関(IMO)のルールにも則って分離通航帯を設け、通航する船舶を守っている。

 日本が5海峡の領海幅を3カイリとする理由は、領海内を他国の核兵器搭載艦船が通過した場合、非核三原則(核兵器の持ち込み禁止)に抵触するという厄介な問題が生じるからだといわれる。

 だが、領海法制定から40年近い歳月が流れ、津軽海峡を取り巻く状況も変化している。国内船舶では、北海道と青森を結ぶフェリーが1日約20往復するほか、函館のイカ釣り船、大間のマグロ船などの漁船が縦横に走り、もともと海難事故が後を絶たない。

 加えてロシアは近年、サハリンのガス田を中心に極東地域開発を進め、それらの物資の輸送に利用している。最近では外国貨物船絡みの事故も起きている。

 昨年12月、海峡内でマグロのはえ縄漁船と外国貨物船が衝突する事故が起きた。同じ時期に、荒天避難のため陸奥湾に進入した外国貨物船がホタテの養殖施設を損壊し、3億円の被害をもたらした。津軽海峡を通過する船が陸奥湾に避難してくるケースも年間数百隻にも上るという。

 青函フェリーの船員は、船舶無線から中国語、ロシア語の会話が頻繁に聞こえるようになって、最近は航行の安全にも不安を覚えだしていると話していた。

■ 北極海航路で通過船が急増?

 海峡の将来に最大の影響を与えそうなのは、「北極海」であろう。今後、北極海航路と北極海の海底資源の開発が進むと、津軽海峡の船舶通過数は飛躍的に増大する可能性が高い。

 仮に津軽海峡の全海域を領海に組み入れたとしても、国連海洋法条約により船舶の通過通航権が保証される「国際海峡」となり、潜水艦の潜航を含む外国の軍艦の通過も認められる。ただし、外国艦船による海域の調査は拒絶でき、示威行為も禁止できる。

 わが国が津軽海峡の安全確保のためにまずなすべきは、領海法を改正し他海域と同様に領海幅を12カイリとし、国家として責任ある管理体制を構築することだ。具体的には、船舶事故を防ぐために分離通航帯を設け、航行管制を行うとともに速度規制などのルールを定めることを検討すべきだ。

 津軽海峡での領海幅を12カイリとすることは、日本海と太平洋を結ぶ重要航路を監視下に置いて、ロシア、中国、韓国にとり主要な国際航路を制御する権限を持つことになる。併せて宗谷海峡、対馬海峡でも領海幅を12カイリに拡大して管理体制を築ければ、わが国が東アジアの海洋安全保障の主導権を握ることにつながるだろう。

 沿岸域管理を徹底することは、海洋国家、日本として当然の義務であると筆者は考える。(やまだ よしひこ)

http://www.sankei.com/politics/news/131105/plt1311050041-n1.html

地図:海上保安庁

(関連)
《核通過見込み5海峡で領海3カイリ 「密約」で政府判断》
2009.06.22 中国新聞

 政府が宗谷、津軽など五つの重要海峡の領海幅を3カイリ(約5.6キロ)にとどめ、法的に可能な12カイリ(約22キロ)を採用してこなかったのは、米軍の核搭載艦船による核持ち込みを政治問題化させないための措置だったことが21日、分かった。政府判断の根底には、1960年の日米安全保障条約改定時に交わされた核持ち込みの密約があった。複数の元外務事務次官が共同通信に証言した。

 これらの海峡は、ソ連(現ロシア)や中国、北朝鮮をにらんだ日本海での核抑止の作戦航行を行う米戦略原子力潜水艦などが必ず通らなければならないが、12カイリでは公海部分が消滅する海峡ができるため、核が日本領海を通過することになる。

 このため、核持ち込み禁止などをうたった非核三原則への抵触を非難されることを恐れた政府は、公海部分を意図的に残し核通過を優先、今日まで領海を制限してきた。表向きは「重要海峡での自由通航促進のため」と説明してきており、説明責任を問われそうだ。

 外務次官経験者によると、領海幅を12カイリとする77年施行の領海法の立法作業に当たり、外務省は宗谷、津軽、大隅、対馬海峡東水道、同西水道の計5海峡の扱いを協議。60年の日米安保改定時に密約を交わし、米核艦船の日本領海通過を黙認してきた経緯から、領海幅を12カイリに変更しても、米政府は核持ち込みを断行すると予測した。

 そこで領海幅を3カイリのままとし、海峡内に公海部分を残すことを考案。核艦船が5海峡を通過する際は公海部分を通ることとし、「領海外のため日本と関係ない」と国会答弁できるようにした。

 ある次官経験者は「津軽海峡を全部、日本の領海にしたら『米軍艦は核を積んで絶対に通らないんだな』と質問された場合、『積んでいない』と答えなければならない。しかしそれはあまりにもうそ」と言明。「うそをつかないために」公海部分を残したと証言した。 別の経験者は「(12カイリにして)ゴタゴタするより(公海として)空けたままにして従来通りという方が楽」との打算があったと語った。

 米政府は冷戦後、日本にも寄港した空母などから戦術核を撤去したが、戦略原潜は今も核弾道ミサイルを搭載し、日本近海を航行しているとみられる。

<解説>「国家のうそ」政策縛る

 政府が津軽海峡などの5海峡の領海幅を3カイリにとどめてきた背景に、米軍核搭載艦船の領海通過・寄港を容認した核持ち込みの密約が影響していた実態が、外務事務次官経験者の証言であぶり出された。「国家のうそ」が重大政策のゆがみを生んできたのである。

 ある経験者は「(政府が)以前のうそに金縛りになっていた」と明言した。日米安全保障条約改定時の密約を受け、政府は「艦船を含めた核持ち込みはない」とのうそをつき通さざるを得なくなり、「金縛り」の帰結が、世界的にもほとんど例がない重要海峡の領海幅制限だった。政府はこれ以上のうそをやめ、真相を国民に開示すべきだ。

 領海幅を12カイリとした領海法が国会審議されていた1970年代半ばから、5海峡のみを3カイリに据え置いたことに関しては、非核三原則との関係が取りざたされてきた。津軽海峡などは領海幅を12カイリにすれば、全海域が領海となる。「米核艦船を通させるため」(76年2月の岡田春夫衆議院議員の質問)に公海部分を残したとの指摘もあったが、政府は一貫してこれを否定してきた。

 しかし今回、こうした過去の政府説明が虚偽であることがはっきりした。密約で核艦船通過を黙認してきた政府は、領海幅を広げることで非核三原則との整合性を国会で追及されるよりも、3カイリにとどめることで核心的な問題を回避する「一番楽な」(別の経験者)やり方を選んだわけだ。

 「津軽海峡の公海域で中国の軍艦船がレーダーを回しても何も言えない」(民主党関係者)との意見も聞かれる。公海域では国連の制裁決議を受けた北朝鮮船舶への貨物検査も事実上不可能だ。

 新たな安全保障政策立案の観点からも密約に起因する「国家のうそ」の連鎖を断ち切るべき時期が来ている。

領海法
 1977年に施行され、それまで3カイリ(約5.6キロ)としてきた日本の領海幅を12カイリ(約22キロ)とした国内法。ただし宗谷、津軽、大隅、対馬海峡東水道、同西水道の5海峡については「特定海域」とし、「当分の間」は3カイリに据え置くこととした。その理由について政府は「重要海峡での自由通航促進のため」などと説明してきた。その後、12カイリ領海や200カイリ排他的経済水域、領海である国際海峡における軍艦の「通過通航権」を認めた国連海洋法条約が94年に発効。しかし日本は5海峡について3カイリの領海幅を引き続き堅持、世界的にも極めて珍しい海洋政策を採り続けている。

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