2014/10/14 14:55

江戸時代に日本の主権が及んでいた樺太がロシアに奪われ、日本の北の守りを担う利尻・礼文。北極海航路が注目を浴び、ロシア・中国の活動が活発になる中、両島の重要性は増しています。

《【島が危ない 北の海の火種(2)】
スクランブル急増、4割が対露機…「北極海航路」で激変する北の海の環境》
2014.10.09 産経新聞

 北海道礼文町の久種湖(くしゅこ)付近で、道道40号線を右に折れると、陸上自衛隊礼文分屯地に着く。空気が乾燥して見通しがよくなると、サハリンが姿を現すこともある。

 最北の自衛隊として、第301沿岸監視隊派遣隊と第301基地通信中隊礼文派遣隊、名寄駐屯地業務隊礼文管理班が駐屯する。分屯地内には「日本最北端の自衛隊」の碑が立つ。

 派遣隊長の力田(りきた)良市三佐(48)によると、宗谷海峡周辺の艦船と航空機の監視、警戒が任務で、隊員は約40人。「北方4島への地上軍の配備、装備の近代化、大規模演習の実施と、活動が活発化するロシア軍は、防衛上、大きな脅威になる」

 力田隊長は「礼文島は宗谷海峡を挟んでロシアと対峙している島だから、緊張感を持っている」と島の重要性を説いた。

 礼文、利尻両島は地政学上、重要な拠点だ。江戸時代に展開された会津藩による利尻島での北方警備がそれを証明している。

 文化4(1807)年ごろ、鎖国下にあった日本に対し、ロシアは強引に通商を迫った。幕府は強固に拒否したため、ロシアは樺太や千島、利尻島などに上陸。放火、略奪、襲撃など武力行使の限りを尽くす。

 幕府から蝦夷地防衛の命を受けた会津藩は、函館、宗谷、樺太、利尻島に、総勢1633人を派兵。利尻島には252人を派遣し警備にあたった。会津藩士の警護の前にロシア武装船の襲来は止まった。

 利尻島中央にそびえる利尻山の麓には、警護で死亡した藩士4人と樺太警護を終え、帰国途中に漂着事故で死亡した4人を弔う墓碑計8基が安置されている。

 利尻富士町の長岡俊裕町議はいう。

 「幕府が会津藩士を配備したのは、ロシアの狼藉から守るというほかに、地理的な意味があった。ロシアが日本を目指すときに、1700メートルある利尻山は目印だった。利尻山を目印にして日本を攻めてきた」

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 その国防上重要な島で最近、航空自衛隊のスクランブル(緊急発進)が増えている。防衛省によると、平成25年度のスクランブル回数は前年度より243回多い810回。対ロシア機に対しては前年度比で111回多い359回で、全体の約44%を占めた。

 同町(おしどまり)の男性商店主(56)は「7月は肉眼でみえるくらいスクランブルがすごかった。昼夜なく、毎日のように。何かが起きているはずだ」と不安を隠さない。

 同町の田村祥三町長も「確かにスクランブルの音をよく聞くようになった。国境に位置するから不気味さを感じる」。加えて、最近、北極海を通ってアジアと欧州を結ぶ「北極海航路」が注目され始め、両島を取り巻く環境が大きく変わろうとしている。

 礼文町の小野徹町長は「北極海航路は、今まで通ったことのない船が通ることになる。見張りがいないから、稚内との間にもどんどん入ってくるだろう。公海だから仕方がないかもしれないが、中国艦船が航行する沖縄の宮古島と石垣のような感じになる可能性がある」と不安げだ。

 利尻町の保野(ほの)洋一町長(66)は北極海航路でさらに往来する船が増えることを挙げ、「島の位置づけも変わってきている現状を考えると、利尻島に自衛隊の誘致を考えるのも一つだ」と言い切る。

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 「利尻山の陰に隠れて、ひそかに寄港する艦船もでてくるのではないか」。利尻島の漁師からはこんな声も聞かれる。

 不安は尽きない。

 元防衛省幹部は「米軍は沖縄を攻略する際、渡嘉敷島に上陸して本島に進撃したが、礼文、利尻は沖縄の渡嘉敷と同じような意味合いを持っている」と憂いを見せながら、こう断じた。

 「北極海航路は、ロシアがコントロールしようとしている。中国にとっても、上海あたりから宗谷海峡へ抜けるための重要な航路だ。寄港地を求めてくるだろう。礼文、利尻は北の国境の島。北海道を守るためにも第一線の位置づけで、対中・ロ面において重要性は増している」

 長岡町議は「国民の目は尖閣、竹島、北方4島に向いているが、利尻と礼文も国境を守っていて、潜在的に重要な島。離島を取り巻く海を守るというのは安全保障の原点ともいえる。そのためにはまず、日本人が住んで生活できる環境を作ることから始めないといけない」と訴えた。

(編集委員 宮本雅史)

■ 利尻島 北海道北部、日本海上に浮かぶ円形の島で、面積182・1平方キロ。中央にそびえる利尻山(標高1721メートル)は多種多様な高山植物が生息、夏場は登山客のメッカになる。利尻富士町と利尻町の2つの自治体があり、人口は、8月末現在で、利尻富士町は2782人、利尻町は2259人。

■ 礼文島 礼文水道を挟んで利尻島の北西に位置、200種類以上の高山植物が咲き乱れることから花の浮島とも呼ばれる。面積81・33平方キロ。人口は8月末現在で2728人。両島とも利尻礼文サロベツ国立公園に指定されている。

http://www.sankei.com/premium/news/141009/prm1410090014-n1.html