2014/10/10 4:13



《最古の洞窟壁画か? インドネシア》
2014.10.09 ナショナルジオグラフィック Dan Vergano

 考古学者が発表した最新の報告によると、インドネシアで発見された洞窟壁画は少なくとも3万9900年前のもので、世界最古の芸術作品として美術史を塗りかえるかもしれない。

 人類最初の壁画アーティストが現れたのは先史時代のヨーロッパと長年考えられてきたが、スラウェシ島の壁画が年代測定されたことで、その範囲が大きく広がりつつある。今回測定された壁画には、手形のステンシルとバビルサ(インドネシア語で“豚鹿”を意味する)が含まれる。

「ヨーロッパやスラウェシ島では、獰猛な大型哺乳動物が圧倒的な迫力で描かれました。おそらく当時の人々の信仰に重要な役割を果たしていたのでしょう」と、研究を率いたオーストラリア、クイーンズランド州にあるグリフィス大学の考古学者マキシム・オーベール(Maxime Aubert)氏は述べる。

 人類の祖先がアフリカ大陸から世界中へ伝播したのは6万年以上前とされるが、スラウェシ島にあるマロス洞窟遺跡の壁画はそれより古い可能性がある。

◆最古の芸術

 1950年代以降、スラウェシ島の洞窟から数百もの手形のステンシルや動物の壁画が見つかっている。描かれた年代は先史時代、島に狩猟採集民が渡って来た1万2000年前以降と推測されていた。

 今回の研究で、研究者らは7つの洞窟にある壁画を覆っていた1センチメートルに満たない鉱物の層を調査した。鉱物層のウラン含有量を測定することで、鉱物が水によって壁面に運ばれた年代が明らかになる。これら堆積物の年代から、壁画の描かれた年代が絞り込めるというわけだ。

 最も古い手形のステンシルは3万9900年と測定されたが、あくまでも壁画を覆っていた鉱物の最小年代に過ぎない。つまり、その壁画はそれより数千年古い可能性がある。

 スペインのエル・カスティージョ洞窟にある赤い円は、同じ年代測定法で少なくとも4万800年とされ、現在知られている洞窟壁画としては最古のものだ。また、同じ洞窟にある手形のステンシルは3万3700年前のもので、スラウェシ島の壁画と同時期にあたる。

「洞窟壁画の起源に関して、これまで“ヨーロッパ中心”の見方であったことをこの研究は示しました」と、イギリス、サウスハンプトン大学の考古学者アリステア・パイク(Alistair Pike)は語る。

◆アフリカから?

 1880年、スペインのアルタミラ洞窟で見つかった先史時代の壁画は、当時の研究者たちに衝撃を与え、洞窟壁画の本格的な調査が始まった。20世紀には、ヨーロッパ各地で新たに数百カ所の遺跡が確認された。

 壁画が次々に発見されると、人類の祖先はアフリカからヨーロッパに移り住み、食料や洞窟をめぐってネアンデルタール人と競いながら文化的に発展していったと人々は考えるようになる。

 しかし、新たな洞窟壁画がヨーロッパ以外で発見されると、過去5万年の間にアフリカからアラビア半島南部を経由してインドネシアやオーストラリアに移動した人類の間でも芸術が普遍的であったことが示された。

 研究著者らは、人類の祖先がアフリカを離れた時、洞窟壁画はすでに描かれていたか、あるいは異なる集団の間で独立して始まったと推測している。

「手形のステンシルは人類にとって普遍的な習慣といえます」と、パイク氏は述べる。確かに、世界中の洞窟や考古遺跡で手形が見つかっている。「現代の子供たちも、手形を作るのが大好きです」。

 あるいは、芸術が社会の秩序を保つ役割を果たした可能性もある。アフリカを離れ、新しい環境と競争に直面した人類にとって、文化的な構造としての芸術が必要だったのかもしれない。

 研究結果は、10月8日付けで「Nature」誌に発表された。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20141009005