2014/07/11 4:08

中国の世界監視機関、人民解放軍総参謀部第3部(3PLA)は、中国の軍事戦略の中心であり、大使館の通信や企業の電子メール、犯罪ネットワークなど世界の多くの通信を監視。衛星や偵察機の監視だけでなく、商業通信システムも海外への主要インターネット・ケーブルも管轄。

《中国の電子スパイ、山から島から秘密の町から世界を監視》

 北京近辺の山の中では国家安全保障局(NSA)の中国版がロシアやミサイルを監視している。また中国のハワイと称される島ではインターネット通話を分析し、北京郊外の高層住宅群の陰に隠れるように広がる秘密の町では欧州に対する傍受活動を行っている。

 中国政府のウェブサイトや学術データベース、安全保障専門家の助けを借りて、ウォール・ストリート・ジャーナルは中国の世界監視機関、人民解放軍総参謀部第3部(3PLA)の秘密の活動の一部に迫ろうとした。諜報活動の専門家によると、3PLAと呼ばれる機関は、中国の軍事戦略の中心であり、大使館の通信や企業の電子メール、犯罪ネットワークなど世界の多くの通信を監視している。

 上海郊外には、米国の現旧高官が米国監視に特化しているとみている施設もあり、その一つは中国と米国を結ぶ主要な海底通信ケーブルの近くに位置する。こうした活動は5月に米司法省が米企業から秘密情報を盗んだ疑いで3PLAの幹部5人を訴追したことで注目を浴びた。

 中国政府がそのハイテク防衛体制の近代化を進めるなか、ジャーナルはこのNSAに似た中国の軍事部門の組織構造を調査するため3PLAの諸施設を検証した。同機関によって混乱をもたらされた政府や企業は増え続けているが、その存在は安全保障の分野の人々以外には依然として知られていない。

 3PLAの運営部門は中国全土に広がっている。優秀な専門大学から採用された推定10万人ものハッカー、語学の専門家、アナリスト、幹部が十数の軍事情報局に配置されていると海外の専門家らはいう。中国各地に散在する拠点から地域や作業ごとに任務を分担している。

 バージニア州のシンクタンクで3PLAに関する未出版の分析をウォール・ストリート・ジャーナルに提供したプロジェクト2049研究所の幹部、マーク・ストークス氏は「その使命は実に幅広い」と述べた。

 北京や上海の一部3PLA拠点では、多数の巨大な衛星アンテナ群がその周囲の壁を圧倒するように設置され、訪問者を縮み上がらせるようなこわもての警備員や警告文が立っている。だが、他の拠点の警備はそれほど厳しくはなく、上海の北にある基地の隣にある農場には十数の無線タワーが設けられている。北京郊外の山腹に建てられた十数の高層住宅の陰に隠れるように設けられた70を超える建物からは主に欧州を監視しているが、その敷地にはサッカー場もあった。

 ジャーナルは100以上の技術論文を突き止めた。その一つはコンピューターウイルスの進化に関する予測モデルをテーマにしたものだった。こうした文書の執筆者の名前にはしばしば3PLA拠点の住所が書き添えられている。他にもネットワーク暗号化の具体的な手法、コンピューター・システムの防衛や攻撃、自動外国語データ翻訳、衛星軌道の計算について記した文書もある。

 衛星や偵察機の監視だけでなく、商業通信システムも中国の米国への主要インターネット・ケーブルも3PLAの管轄にある、と専門家はみている。

 情報分析に詳しい米国の元高官2人は、3PLAの運営構造はメリーランド州フォート・ミードにあるNSAや国防省のサイバー軍と似たものがあると述べる。

 しかし、NSAのターゲットが毎年、政府の情報政策に沿って定められるのに対し、3PLAの部隊は中国の中央軍事委員会による5カ年計画を基にするものの、元幹部の1人によると、「ボトムアップ」戦略により裁量の余地は米国より大きい。

 軍事委員会を率いる中国の習近平主席は、「情報化」を今年の安全保障戦略の優先課題と位置づけ、同関係者によると、3PLAの業務の重複排除や効率向上を求めている。関係者の1人によると、習氏の下、委員会は衛星・偵察機による監視能力の向上を進め、国境地域に関するデータ収集改善を重点に置いている。

 元台湾の防衛相で現在、中山大学の教授のアンドリュー・ヤン氏は「第3部がより多くの裁量を得て責任を担うことは避けられない」とし、同機関について、「交信や電子的収集・分析を担当し、PLA(人民解放軍)のみならず、おそらくは政府にとっても重要な役割を担っている」と述べた。

 プロジェクト2049のストークス氏は、3PLAについて「どのように機能しているかは誰も知らないと思う」とし、同機関の組織や運営をめぐる多くの見方が依然として仮説にとどまると認めた。同氏は米空軍元幹部で防衛大手レイセオンの台湾拠点を率いた経歴を持ち20年以上3PLAを研究してきた。

 中国当局は、3PLAに関する質問には答えなかった。中国によるサイバースパイ疑惑については再三否定している。6月には外務省の華春瑩報道官が記者団に「アメリカは犠牲者を演じることをやめるべきだ」と述べた。中国政府は米国を偽善的だとし、米国が中国の政権首脳に対するスパイ活動など幅広いサイバースパイ活動に及んでいるとのエドワード・スノーデン元NSA契約職員の主張は、米国の専門家によって裏付けられたと述べている。
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702304188504580018082942789688