ここまで政策が異なる人達が選挙の為に一つの党の体裁を取っていても、まともな政策は決められません。ものの役に立たない。
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《変わらぬバラバラ「自衛権」「原発」「野党再編」…代表選でみえた民主の実体と前途》
2015.01.21 産経新聞
民主党代表選は18日の投開票の結果、岡田克也氏が細野豪志、長妻昭両氏を破り、9年4カ月ぶりに代表の座に返り咲いた。
岡田氏ら3人は選挙期間中、10カ所以上で地方遊説を行い、テレビ、インターネット番組への出演で盛り上げに必死だった。だが、議論を深めれば深めるほど、集団的自衛権や原発再稼働、野党再編などをめぐる党内の埋めがたい大きな溝が明らかになった。
岡田氏は18日の新代表就任直後の記者会見で、党内の見解の相違をどう乗り越えるかについて「丁寧に議論する」と述べたが、特に違いが明白なのは集団的自衛権の行使をめぐる見解だ。
岡田氏は閣議決定で行使を容認した政府の手法には反対だが、「集団的自衛権行使を認めないと叫んでも巨大与党がどんどん前に進んでいく。歯止めができれば賛成することもある」と、その必要性は否定していない。
細野氏も、代表選前から有志議員とともに限定容認を前提にした安全保障基本法の骨子案をまとめている。ところが岡田氏は18日の記者会見で、安保基本法案について「閣議決定の中身と変わらない。受け入れることはできない」とさっそく牽制した。
長妻氏はそもそも「個別的自衛権の範囲内で対応できる」との立場だ。「憲法を改正すれば集団的自衛権はいいとなってはならない」と、行使容認自体に反対の姿勢をとった。
安全保障関係では、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設も見解が異なる。迷走の末に辺野古移設に回帰した鳩山由紀夫政権の外相だった岡田氏は「沖縄の人を粘り強く説得するしかない」と推進の立場だ。
細野氏は「いろんな可能性を探るべきだ」と曖昧で、長妻氏は「辺野古の基地の規模、位置、進め方などについて柔軟に住民の理解を得られるよう話し合いを続ける」と計画の一部変更も検討すべきだとの考えを示した。
これは8日の日本記者クラブ主催の討論会での発言だが、長妻氏は12日、自身の発言が中途半端だと感じたのか、フェイスブックで「現状で辺野古基地建設を強行することには反対」と補足し、反対の立場をより鮮明にした。原発政策でも岡田、細野両氏は再稼働を否定しないが、長妻氏は明確に反対している。
代表選の1回目の投票で3位となった長妻氏には37人の国会議員が投票した。その中心は旧社会党出身の赤松広隆前衆院副議長らのグループで、社民党らとの護憲派の議員連盟「立憲フォーラム」代表の近藤昭一元環境副大臣は長妻氏の選対本部長を務めた。日教組、自治労の支援を受ける議員が多く、リベラル・左派勢力が結集した。132人の政党で集団的自衛権や移設問題で正反対と言っていいほど意見の違う37人の集団がいることが明らかになったわけだ。
だが、岡田氏が国会議員らによる細野氏との決選投票を制したのは、赤松氏らの票が流れ込んだからだった。ちなみに長妻氏の推薦人に名を連ねた近藤氏と篠原孝、福田昭夫両衆院議員、増子輝彦、有田芳生、徳永エリ各参院議員は昨年4月、トルコなどへの原発輸出を可能とする原子力協定の国会承認に賛成とした党方針に反し、採決を棄権・欠席した。岡田氏は、組織の決定に従うことさえできない実績を持つ人たちから支援を受けたことになる。
岡田、細野両氏は、野党再編への見解が正反対だ。
岡田氏は18日の記者会見でも、維新との合流を「到底考えられない」と否定し、あくまで民主党の原点回帰を訴えた。代表選では、昨年の衆院選前に維新の党との新党構想を自身に提案してきた細野氏の行動を暴露した。「細野氏の本心は野党再編」とあぶり出す狙いがあったのは間違いなく、「政治家として言葉に責任を持つべきだ」と激しく追及した。
細野氏は代表選に入ると「民主党を再生する」と訴え、維新との合流新党について声を大にすることはなかった。ただ、「同じ考えの人たちを結集することは政権を取るために必要だ」とも語り、野党再編志向を捨てたわけでもない。党再生を訴える岡田氏の攻撃には「それならば、なぜ大阪市で民主党候補を立てなかったのか」と切り返し、昨年の衆院選の責任者だった岡田氏を批判した。「本来の敵」は自民党だろうに、壮絶な身内の泥仕合となった。
こうした光景は、自民党総裁選ではあまりみられない。野党時代の平成24年9月の総裁選は、安倍晋三、石破茂、町村信孝、石原伸晃、林芳正の5氏が立候補した。歴史認識などに違いはあっても、安全保障政策で大差があったわけではない。
当選して政権を奪還した安倍首相は、総裁選中に病気となった町村氏を除く3氏を幹事長や閣僚で処遇した。石破氏は2年近く幹事長を務め、閣僚は一人も顔ぶれが変わらないまま617日続き、戦後最長を記録した。
民主党代表選の3候補がそろって足並みをそろえた重要政策もある。憲法9条の改正反対だ。
岡田氏は14日に札幌市で党員らを対象に開いた集会で、「安倍政権である限りは憲法改正の議論をしないというのが民主党の考え方であるべきだ」と述べ、代表に就けば党として改憲議論を封印する考えを示した。代表選の投票直前の演説でも繰り返した。
理由は「基本的な考え方が違う」からだという。「言論の府」に身を置きながら、考え方が違う人とは議論さえしないとの宣言だった。
札幌市の集会では長妻氏も「安倍内閣の下で9条をいじることは絶対あってはならない」と明言した。細野氏は「安倍政権や自民党の憲法観とは全く異なる。軍隊の不保持と交戦権の否認はしっかり守るべきだ」と語った。
ほかにも3候補は全員、衆院選への対応や政権時代の運営への反省を語り、党の多様性の尊重と結束の必要性も同時に訴えた。多様性と結束は二律背反になりかねない難題だが、「決めたことには従う」との政治文化を徹底することも約束した。
その具体的な克服の手段を示さないところまで共通していた。14日の集会では、会場から「代表選後に3人は協力できるのか」との質問が出た。長妻氏は「全面的に協力する」、細野氏は「約束する。大丈夫だ」、岡田氏は「当たり前だ」とそれぞれ答えた。さらに岡田氏は、こう付け加えた。
「政策が同じだったらおかしい。いろんな意見の違いがあっていい。しかし、それはあくまでも同じ土俵の中でどこに重点を置くかという違いだ。根本的に違わないということは3人の議論を聞いていたら分かると思う」
3人の議論を聞けば聞くほど、多くの点で根本的に違うことが判明したが、政策の違いを乗り越えられずに結束できなかったのが民主党の歴史だったはず。バラバラの党を今後はどう克服するかとなると、岡田氏は「丁寧に議論する」「皆さんの意見を聞いて合意形成したい」とお茶を濁した。民主党の実態と前途がよく分かる代表選となった。(政治部 酒井充)
http://www.sankei.com/premium/news/150121/prm1501210006-n5.html