《『アンブロークン』に含まれる個々の話は事実なのか?》 2015.01.21 ミツジのブログ 書籍「アンブロークン」には、つくり話としか思えない記述がたくさんあり、それについては、丸谷元人著「日本軍は本当に『残虐』だったのか」という本に詳細に書かれている。 同様の問題意識をもつ米国人もやはりいるようで、ニューヨークポスト紙は、去年の12月21日、「『アンブロークン』に含まれる個々の話は事実なのか?」という記事を配信した。 この記事は、この本の記述には信じがたい話がいくつかあるとして、3名の専門家の意見を掲載している。 クロード・ピアンタドッシ博士。デューク大学医学部内科教授。「サバイバル生物学―極限下での生と死」の著者。 トマス・コイン。カリフォルニア・サバイバル訓練学校のチーフインストラクター。米海兵隊、海軍、空軍にも訓練技術を指導している。 アレン・ケラー博士。ニューヨーク大学ベルビュー病院、拷問の犠牲者のためのプログラムの責任者。 ザンペリーニたちは、赤道に近い太平洋上を救命ボートで47日間漂流し、連日太陽の直射を受け、1週間ほど水も飲めなかったが、そんな状況で生きていられるのか、という質問について、ピアンタドッシ博士は「とても生きていられるとは思えませんが、涼しくて日陰がある状況なら、人間は1週間までなら生きていられるでしょう。直射日光を受けていれば、タイムリミットは48時間」と述べている。 機が墜落して、ザンペリーニが機とともに深く沈んでおぼれ、真っ暗な海中で意識を失い、その後意識を取り戻し、血やガソリンを含んだ海水を飲み込みつつ、機体から脱出、炭酸ガスで救命胴衣を膨らませて海面まで急浮上するシーンについて、ケラー博士やコインはこの話を信用しておらず、コインは「スパイ映画のようだ」と述べている。 ザンペリーニはクエゼリン島から日本に移送される船の中で、水兵に顔面を殴られ、鼻の骨が変形して骨が飛び出したという。3週間後、日本についたとき、将校に懐中電灯で顔面を殴られ、さらに鼻が変形したというが、無事でいられるのか、という質問について、ビアンドッジ博士は「ありそうもないですね。ひどい栄養失調状態にある人物が、骨が飛び出すような外傷を負ったら、高度な治療を受けなければ、感染する可能性が非常に高い」と述べ、コインは「最初の骨折は3週間では治りません。さらに懐中電灯で6発殴られたのなら、深刻なダメージとなります」と述べている。 ザンペリーニは、日本の収容所で、赤痢、飢えに苦しみ、40度の高熱が出ることもたびたびあったが、そんな状況で彼は、命令された100名の捕虜仲間から連続して、顔面を1発ずつ殴られている。220発だったという話もある。それだけ殴られて死なずにすむのか、という質問に対して、3人は次のように答えている。 ピアンタドッシ博士「ちょっと考えられません。非常に弱い力でなければ助かりません」 ザンペリーニは、数日後、長さ1.8mの重い角材を37分間持ち上げたというが、そんな力はあったのか、という質問に対して、ピアンタドッシ博士は「角材の重さと衰弱の度合いによると思います」、ケラー博士は「ザンペリーニの時間の感覚が歪んでいるのではないでしょうか」と答えた。コインはその話を信用していないような答えだった。 この記事は、故意ではないにせよ、誇張あるいは記憶違いの部分があるのではないか、と考えて、専門家の意見を聞くことにしたというが、明らかに故意であろう。著者のヒレンブランドは物語を文字通り「劇的」に見せるために、そして、日本軍をとことん残虐に描いてザンペリーニの赦しを際立たせるために、故意に、誇張と捏造をたくさん入れているように思う。 「アンブロークン」と、同じ捕虜収容所での出来事が描かれているルイス・ブッシュの「おかわいそうに」とでは、まったく違った印象を受けるのは、アンブロークンの著者が真実を描こうとはしていないからである。 それに関しては、「おかわいそうに」と「アンブロークン」を対比した下記ブログ記事は参考になる。 《主人公について。大森収容所のエピソードから – 小説アンブロークンを読む -》 |