01/05/2018 09:31:24 AM

作家‣人事コンサルタント 城繁幸氏。
「薄情な保守」より「バカなリベラル」の方が100倍たちが悪い。
育児支援について、「自己責任」でも「企業にやらせろ」でもなく「セーフティネットを税金で作れ」という点には賛成です。

《「薄情な保守」vs「バカなリベラル」》
2018.01.04 Joe’s Labo 城繁幸

年末にふと女性の育休についてつぶやいたらそれなりに反響があり、やっぱり皆さん関心があるんだなあと実感したものの、中には「最近のエリートは90年代以前と比べて情けない」とか「ノブレスオブリージュが失われた」とか明後日方向のレスも散見されたので、年始にちょっとまとめておこうと思う。

世界には大きな政府と小さな政府の2種類がある。大きな政府というのは税金は高いけれども失業者に手厚い給付があって教育も安く充実していて、女性に対する子育て支援もたっぷり行われるようなもの。一方の小さな政府はそういうものが無いかあってもちょこっとだけ。基本は自分でなんとかしろの精神だ。

そこで「年金支給まで企業は従業員の面倒見ろ、子どもが出来たら最大で2年間育休取らせろ、復職しても賃金下げるな」っていう民間企業丸投げの日本式がどっちになるかというと実はどっちでもない。丸抱え出来る大企業に入れるエリートにとっては(それに見合うだけの働きを要求されるにせよ)大きな政府に見えるだろうし、そういうところに入れてもらえない過半数の人にとってはとても小さい政府に感じられるだろう。

要するに、本来は社会保障というのは政府が万人に等しく提供しなきゃならないのに、民間に任せてしまうとその保障に見合った人材しか採用されないから、エリートはますます手厚く保護される一方、困ってる人はさらに弾き出されて落ちていくということだ。解雇規制緩和して労働市場流動化しろというのは実は大きな政府小さな政府の議論とは全然関係なくて、流動化後の公的なメンテをどこまでするかが政府の大小を決める本質的な論点だったりする。

で、人生ぜんぶ丸抱えしてもらえるような大企業に入って順風満帆な人生を過ごしている人たちの中からは「三菱商事とかトヨタ入ればよかったのに。なんで入らなかったの?ねえなんで?」みたいな、困っているシングルマザーからしてみれば糞の役にも立たないアドバイスくらいしか返ってこないわけだ。

そういえば10年くらい前に麻生総理がハロワ視察した時に失業者に「今まで何やってたんだ(笑)?」なんておっしゃってたけど、あれこそ「社会を線引きして幸運にもエリートの側に入れた人」の素朴な意見だろう。

個人的にちょっと問題だなと思うのは、政府の審議会とか諮問機関入りしてる女性には冒頭のようなことさらっと言っちゃうようなエリート女性が多くて「女性の子育て支援強化!とりあえず育休延長しましょう!」とかいって結果的に困ってる人がさらに追い落とされるオチになっていることだ。

そうそう、年末にやはり号泣しているシングルマザーがニュースになっていたけど、あの原因となった“5年ルール”を推進したのは日弁連や共産党、民主党といったリベラル派だ。「5年雇ったら無期雇用にしろ!エイヤー!」と叫びながら見事にシングルマザーを奈落の底に蹴落としてみせたわけだ。「薄情な保守」より「バカなリベラル」の方が100倍たちが悪いというのが筆者の意見だ。

【参考リンク】3カ月更新の契約で17年、突然の「雇い止め」http://www.huffingtonpost.jp/2017/12/18/haken_a_23310240/

では、いつからエリートは“堕落”したのか。少なくとも筆者の知る限り80年代からはずっとそうだったはずだ。筆者はバブル崩壊直後に入学したが、その頃は既に東大生の親の平均年収は一千万を超えていたし、その親世代は子供たちに「とにかく大きな会社に就職しなさい」と諭していた。入る企業の規模により得られる社会保障に大きな差がつくことを彼らは皆知っていたから。「自分たちは一生懸命努力したのだからそうした恩恵を受けるのは当然の権利」というのが彼らに共通するスタンスだ。

むろん筆者の友人知人にもリベラルな人はいて、中には共産党に入った人までいる。そういった人たちは「政府はもっと格差を是正すべきだ、困ってる人を助けるべきだ」と言いはするが、「政府が誰でも使えるセーフティネットを税金で作れ」とはけして言わない。なぜか「大企業の内部留保を使え」とか「パナマ文書に名前が出てるやつの財産没収しろ」とか、要するに俺以外の誰かがなんとかしろ的なことしか言わない。

理由ははっきりしていて、別に彼ら自身が現実に困ってるわけではなく誰も本気で考えてはいないから。彼らも親はエリートだし友人知人も小金持ちで固めてるし、とにかく周囲に困ってる人なんて一人もいない。シングルマザーとか雇い止めなんて現象は、彼らエリートリベラルにとっても遠い世界のおとぎ話でしかない(いや、ひょっとすると彼らエリートリベラルの多くは知っていてわざとトボけているだけなのかもしれない)。

筆者はたまに同期で集まったりすると「弱者は可哀想だが努力しなかった本人の自己責任」派と「企業をもっと規制でがんじがらめにすべき」派の議論を目にすることがある。そういう時に、「誰もが使うセーフティネットなんだから、みんなが負担できる形の税金でしっかり財源確保した上で間口を広げた方がいいんじゃないか、それこそが本当の大きな政府なんじゃないか」と両陣営を説得するのが、たぶん本当のリベラルの役目なんじゃないかと最近思う。筆者の知る限り日本にはいないけど。

え?おまえが言えって?筆者は少なくともリベラルではないので言わない(笑)
ただ個人的には、さもリベラルな面して「大企業の内部留保で正規雇用に!」とかいって弱者を蹴落としてる連中が嫌いなので、今後もことあるごとにその点だけはあげつらっていくだろうけど。

http://jyoshige.com/archives/9030537.html

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