12/12/2017 12:58:59 PM

私の勉強会でも講演頂いた髙橋洋一 嘉悦大学教授より、電波オークションとNHK分割案等について。

《受信料を払いたくない人も納得の「大胆なNHK分割案」を示そう なくてはならない機能もあるからこそ》
2017.12.11 現代ビジネス 髙橋洋一 嘉悦大学教授

■ NHK裁判の本当の意味

マスコミ・通信放送業界にとって、この一週間は大きな出来事が続いた。もっとも、自らの業界についての話題なのに、多くは報道なし、あるいはやや報道をしてもピント外れのものが多かった。

大きな出来事とは、12月6日(水)の①NHK受信契約訴訟での最高裁判決(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/281/087281_hanrei.pdf)と、8日(金)の②電波制度改革での閣議決定(http://www5.cao.go.jp/keizai1/package/20171208_package.pdf)のことである。

もう一つは、電波オークションについてだ。8日の閣議決定は、電波オークションについて、11月29日に公表された規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大学教授)の第2次答申(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/publication/toshin/171129/toshin.pdf)で示された事項を「着実に実施」するとされている。

12月7日には、NHK決算についても国会で審議されている(http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DC6A36.htm)。

これらの、メディアにとっての「重大事項」について、メディアはどう扱ったか。

①NHK受信契約訴訟については、当事者のNHKが、

NHK受信契約訴訟 契約義務づけ規定は合憲 最高裁大法廷(http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171206/k10011248431000.html

と報じた、これは他のメディアでもほぼ同様だった。

②一方の電波制度改革については、

オークション先送り(https://mainichi.jp/articles/20171130/k00/00m/020/102000c

とシンプルなもので、報道の数自体も少なかった。

まず①についてだが、最高裁判決の報道には微妙な点もある。受信料制度は「憲法に違反しない」との判決であるが、報道では「NHKが裁判で勝った」かのような印象で報じるものが多かった。しかし、実はそうでもないのだ。

NHKとの契約については放送法64条1項で「協会(NHKの意味)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と定められている。ただし、契約をしない場合の罰則はない。

今回の判決では、この受信料の契約では、NHKからの一方的な申し込みでは契約や支払い義務が生じず、「双方の合意が必要」としている。つまり、NHKが受信料を巡る裁判を起こして、その裁判の結果が確定すれば契約は成立するというわけだ。この場合、受信料はテレビを設置した時期に遡ってはらうとしている。

つまり、今でもNHKは料金不払いを続けるもの(や組織)に対して訴訟を起こしているが、今回の最高裁判決は、「NHKが勝訴した場合には、テレビ設置に遡って料金を払う必要がある」と言っているだけであり、実は現状が大きく変わったわけではないのだ。この意味で、NHKが勝ったとはいえないのである。

もっとも、「裁判に負けた場合、受信料はテレビを設置した時期に遡って払う」というのは、料金不払いでNHKから訴訟された場合に負けることを考えれば、大変なプレッシャーになり得る。これで、未払いを続ける人の心理的な負担は大きくなるだろう。これから、NHKは料金不払い者に対してどんどん訴訟に踏み切る可能性もあり、その場合に、NHKの脅し文句につかわれるかもしれない。

一方、もしNHKに裁判を起こされた場合、訴えられた人が裁判の途中で「テレビは故障していたので廃棄した」と主張したら、どうなるだろうか。テレビを設置した時期の証明は困難なので、確定判決を得ることはできない可能性がある。つまり、ひょっとしたら今回の判決も、実際上の意味はかなりなくなるかもしれないのだ。実際、テレビ設置をした時点で契約の義務が発生するというものの、故障したテレビでは契約義務があるかどうかの判断は微妙である。

いずれにしても、今回の判決によって、今後、NHKは料金不払いについての訴訟を多く起こすようになるだろう。なぜならば、訴訟して勝訴しないと契約を結んだことにならないからで、契約がなければ支払い義務はそもそも発生しないからだ。

■ 「払いたくない」も分からないではないが

さて、現在の契約状況をみると、受信契約対象数に対する支払数を示す受信料支払率は79%(2017.3末)、契約総数に対する衛星契約数を示す衛星契約割合は48%(https://pid.nhk.or.jp/jushinryo/know/jyushinryo.html)である。NHKは、受信機のあることを証明しやすい衛星契約の割合を高めるようにしてくるだろう。

一方、国民感情はどうか。衛星放送を含めてNHKについては、観ないから払いたくないという人はかなりいると思われる。ネット上でも、今回の最高裁判決について、多くの反応は、「なぜ観ないものに対して金を払わなければいけないのか」というものだ。例えば、12月9日の現代ビジネスの記事「NHK『受信料支払い拒否裁判』は時代錯誤も甚だしい」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53762)などである。

たしかに、いまは地デジ時代なので、NHKも「スクランブル放送」(「WOWOW」や「スカパー!」のように契約者だけが放送を観られるような暗号化する方式)にすればいいという意見は多い。これなら、観ない人は受信料を払わなくて済み、観る人だけが受信料を払えばいいからだ。

こうした素朴な「観たくない」という意見の背景には、NHK職員があまりに高給だから、という問題もある。

国会に提出されているNHKの財務諸表によれば、職員一人あたりの平均給与は、1098万円である(http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/kessan/h28/pdf/kessan28.pdf)。9月に公表された国税庁による2016年民間給与実態統計調査によれば、1000万円超の給与所得の人は、4.2%しかおらず、かなりの高給取りである。

ちなみに、今話題になっている来年度の所得税改正では、高額所得者の所得税負担が高まるが、それは、年間850万円以上のところで線引きされる予定であるので、その意味でNHK職員の給料の高さは、一般人からみれば羨望ものだろう。

そうした高給を、税金と同じように徴収される受信料で支えなければいけないのか、という一般国民の声は確かにある。しかも、ある種の番組では政治的に偏向しているから、観たくないという批判もある。また、芸能関係の番組は公共放送でやるまでもないという意見もある。一方で、NHKの災害放送については国民に評価する声は多い。

以上をまとめれば、一定の受信料を払ってもいいが、番組の内容には意見を言いたいというところだろう。つまり、観たくない番組には受信料を払いたくないが、必要なものは公共放送でいいというのが、多くの国民の意見ではないか。

最高裁判決は、現行制度の下での解決策であるが、これでは国民のモヤモヤはなくならない。立法政策によって解決すべき点が多い。そこは最高裁ではなく、政治家の出番である。どうすればいいのかは、最後にまとめて述べよう。NHKに不満を持っている人は、ぜひ最後まで読んでほしい。

■ 電波オークションについていっておきたいこと

次に②である。「オークションは先送り」という報道は、ちょっとミスリーディングである。

電波オークションは、マスコミの収益を支えてきたテレビへの新規参入を促進する効果をもつことを、筆者は本コラムでも書いてきた。例えば、2017年11月20日「新聞・テレビが触れられたくない「マスコミの大特権」の話をしよう」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53563)である(その中で、やや古い資料により「電波オークションを実施していない先進国は日本を含めて3ヵ国」と書いたが、現時点では日本だけだった。訂正しておきたい)。

こうした中、8日(金)に電波制度改革での閣議決定があった。先月29日に出された規制改革推進会議第二次答申を着実に実施する、というものだ。

第二次答申のポイントは以下である。

(資料1 添付)

ここに書いているのは、aは「平成30年夏までに検討・結論、平成30年度中に法案提出」、bは「平成29年度以降継続的に検討」ということでより重要なのは明らかに「a」である。

aの中で、ポイントは、「価格競争の要素を含む新方式を導入(平成31年通常国会で法整備)」という部分である。bは「入札価格の競り上げにより割当を受ける者を決定するオークション制度について、…引き続き検討を継続する」と書かれているが、新聞報道は、この「オークション」という言葉に反応して、「オークション先送り」としたようだ。

そもそも、オークションにはいろいろな形態がある。入札者が相互に価格を知ることができる公開型には、競り上げ方式(イングリッシュ・オークション)と競り下げ方式(ダッチ・オークション)があり、一方入札者が相互に価格を知らない封印型には、ファーストプライス方式とセカンドプライス方式がある。また、それ以外の要素の組み合わせもあり、オークションの形態は多種多様である(下図)。

(資料2 添付)

ちなみに、一定の条件のもとでは、売り手の得る期待収入はオークション方式に依存せず同一となる、という収入同値定理(revenue equivalence theorem)が数理的に証明されており、イングリッシュ、ダッチ、ファーストプライス、セカンドプライスの4方法では、それが成り立つとされている(なお、セカンドプライス方式は、数理的なオークション理論で1996年にノーベル賞を受賞したヴィックリーにちなみ、ヴィックリー・オークションといわれている)。

こうした知識をもとに第二次答申のポイントを読めば、一般的な用語として「オークション」とは「イングリッシュ・オークションとそれ以外のオークション」になるが、bの文章より、イングリッシュ・オークションは「引き続き検討を継続する」となる。

しかし、「オークション」は、多種多様であることを考えると、aの「価格競争の要素を含む新方式」はすべての「オークション」を含むこととなる。それを「平成30年度中に法案提出」するとなっている。

マスコミは、イングリッシュ・オークションだけが「オークション」と思い込んだのだろう。実は、筆者は役人時代に多くのタイプのオークションを経験したことがある。国債入札であっても、価格競争でも競り上げ方式ではない競り下げ方式のダッチ・オークションを経験したこともあり、また非価格入札もある。「オークション」という言葉には、それらの広い意味があるのである。

もちろん新方式は「平成30年度中に法案提出」となっている以上、既得権を確保したい抵抗勢力は必死に電波オークションの法案化に抵抗するだろう。しかし、この閣議決定でかなり外堀は埋まったというのが筆者の感想である。なにしろ、電波オークションを導入していないのは日本だけである。抵抗勢力の言い訳(外資がテレビ局を乗っ取ることへの懸念など)への対策は、すべて先進国のオークション事例の中にあるといってもいい。

マスコミは「オークション先送り」と報じてホッとしているところだろうが、しかし相当な危機感を持っておいた方がいい、と忠告しておこう。

■ NHK改革案を示そう

最後に、NHK受信料の国民の不満についての私見を述べよう。

ここまで見てきた通り、来年には電波オークションの第一歩が始まる。ということは、通信放送業界に再編の好機がやってくる、ということだ。それにあわせて、政治主導でNHK改革を打ち出せばいいのだ。

ずばりいえば、NHKを、「公共放送NHK」と「民間放送NHK」に分割するのが、理論的にも一番スッキリする。これなら、肥大化したNHKのスリム化にもなるし、公共放送NHKは受信料制度によって社会的使命を果たすことができ、「偏向」と批判されるようなものは民間放送NHKで放送し、民間放送と競争すればいい。

しかも、このように、NHKを民間と公共部門に分割すれば、今の受信料も公共放送を維持するだけのためのものになるので、今より低くなるだろう。

こうしたNHK改革案は過去にも検討されたことがある。しかし、その度に、NHKのみならず民放業界からも反発があって、実現しなかった。実は筆者も12年前の総務大臣補佐官時代にそうしたNHK改革案を考えたこともあり、実際、大臣懇談会での検討まではこぎ着けた。しかし、あっという間に自民党守旧派に潰された。

だが、これからは電波オークションの時代がやってくる可能性が高い。新規参入の目玉として、「民間放送NHK」はいい玉になる可能性がある。しかも、地デジ時代なので、民間放送として広告以外の利用料も徴収可能である。

もちろん、民間放送業界が現在支払っている「電波利用料60億円程度」は、オークション導入の結果として高くなる可能性もある。その場合、テレビ局はいまの平均給与は維持できなくなるかもしれない(支払う電波利用料が増えるなら、人件費を抑えざるを得ないだろう)。

ちなみに、各社の有価証券報告書によれば、東京放送ホールディングス1662万円、朝日放送1516万円、フジ・メディア・ホールディングス1485万円、日本テレビホールディングスス1428万円、テレビ朝日ホールディングス1380万円、テレビ東京ホールディングス1375万円と、NHK1098万円よりさらに高い(なお、日本で所得1500万円超の人は1.1%しかしない)。

ついでに有価証券報告書をみると、フジテレビをもつフジ・メディア・ホールディングスなどは、テレビで四苦八苦しており、不動産収入が支えているともみれる。不動産会社がテレビをやっているような側面もあるのだ。これから、いろいろな新規参入があると、多少テレビで儲からなくてもいいから、といろいろな業態が入ってくるだろう。

こうして民間放送において新規参入が促されるのであれば、放送法4条の政治的中立条項は不要になる。この条項があるのは、新規参入がないためである。そうした縛りがなくなれば、放送業界の現場でも、もっと自由に面白いコンテンツが作れるだろう。近年、規制や自粛要請が多くて作りたい番組が作れないというテレビの現場の声も聴くが、それも解消されることになるかもしれない。テレビマンの中には、それを喜ぶものもいるだろう。

近年、インターネットテレビなどが台頭しており、通信放送業界もいつまでも古い規制の枠に浸かっているのは得策ではない時代になっている。それは、NHKだって同じなのである。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53787

https://www.facebook.com/koichiro.yoshida.jp/posts/888225771344960