01/18/2016 07:21:33 PM

全くその通りだと思います。

《【正論】日本的な「気配り外交」は国益を損ねる 袴田茂樹(新潟県立大教授)》
2016.01.18 産経新聞

 日本と諸外国の関係を見て、そして日本の対外発信のあり方を見て、歯がゆい思いをすることが少なくない。日本文化を前提にしたわれわれの行動や発言は、外国人には通じないことが多いからだ。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の記憶遺産問題、日中・日韓の歴史問題、北方領土問題、その他多くの問題でそれを痛感する。

■ 10伝えたい時は15の説明を

 日本は、和歌や俳句がその典型だが、日常会話においても、相手に10伝えたい時、2か3話して残りは相手の推測に委ねるという洗練された文化を有している。10伝えたい時、10話すのは野暮(やぼ)というものだ。わが国民はほぼ同じ心理・文化を共有しているのでそれが可能となるのだが、しかし世界の大部分の国では、10伝えたい時は15言わないと伝わらない。というのは、欧米でも中国やインドでも、宗教や価値観、言語などが異なる多様な人々が混住しており、日本人から見ると野暮なアプローチをしないと、言いたいことは伝わらないのである。

 だから、正宗白鳥が述べたように、日本人でさえ原文よりもウェイリー訳の英文源氏物語のほうが、「サクリサクリと歯切れがよく、糸のもつれのほぐれるように」分かりやすいということになる。ウェイリーは原文では婉曲(えんきょく)表現や省略の部分を直接表現にしたり補ったりしているからだ。源氏物語の中国語訳についても、専門家は次のように言う。「和歌の情緒や含みを中国語に置き換えようとする場合、明言しなければ意を成さないという文化的相違を改めて感じさせられる」(胡秀敏)

 また、日本人の人間関係には独特の「気配り文化」がある。相手の気分を害することはストレートに言わないという配慮だ。時には言いたいことの正反対の表現がなされ、聞き手が相手の意を忖度(そんたく)しなくてはならないのである。例えば、何か提案や頼みごとをしたとき、相手が「考えさせて下さい」と言ったら、断りの言葉と理解しなくてはならない。

■ 理解できない日本側の主張

 このような控えめの表現や気配りは、国際的には通用しないどころか、しばしば誤解を生む。つまり、相手の気分を害さないようにという「気配り外交」は、国益を損ねる場合が少なくない。具体例を、日露関係で挙げてみたい。

 ラブロフ露外相はしばしば公に「日本は大戦の結果を認めない世界唯一の国だ」と対日批判を行っている。モルグロフ露外務次官も、世界に発信されるインタファクス通信のインタビューで次のように述べた。「日本とは領土問題でいかなる交渉も行っていない。この問題は70年前に解決されており、北方四島は第二次大戦の結果、合法的にわが国に移った。日本はこの客観的な歴史的事実を認めるのを拒否している」

 この発言は、2005年9月のプーチン大統領による「南クリル(北方領土)は第二次世界大戦の結果ロシア領となり、国際法でも認められている」という発言を基礎にしたものだ。これは北方四島の帰属問題が未解決という両国の基本合意を否定するものだが、日本政府はなぜロシア側の言い分が間違っているのか、自国民や国際社会が理解できるような懇切な説明を発信していない。

 モルグロフ発言に対しても岸田文雄外相は「非建設的で事実に反する。安倍晋三首相とプーチン大統領との合意にも反する」と反論しただけで、それ以上の説明は何も発信していない。これで日本側の主張を理解できる者がいるだろうか。これでは、国際社会はロシア側の言い分が正しいと思うようになるだろう。

■ 分かりやすい言葉と論理を

 日本側の対応の背後には、相手のナンセンスで低劣な発言に対して、同じレベルで相撲をとるのは品がなく、はしたないとか、われわれはもっと大人の態度で臨む、といった気持ちがあるのではないか。また日本のこのような対応は、プーチン訪日を実現しようとして、相手の気分を害するような発言は控えようという「気配り外交」なのではないか。

 最初に述べたユネスコの世界記憶遺産に「南京大虐殺の資料」が登録され、米国各州に、慰安婦像が建設されつつある。これらも、ユネスコ関係者や米国の世論に日本側の見解が正確に、いやほとんど伝わっていないからであり、これまで述べた日本側のアプローチや発信の仕方に問題があると私は考えている。そして「売られた喧嘩(けんか)は買わない」というお高くとまった姿勢が、結果的に最近の慰安婦問題での釈然としない謝罪外交に自らを追いやったのだ。

 国際社会では、日本が10の非難を受けたら、それが嘘だらけの低劣な非難であるとしても、懇切丁寧に15の説明と反論が必要である。同じ低レベルの土俵では相撲はとらないという「大人の態度」は、国際的には通用しない。ロシアの強硬な対日政策に対しても、日本は対露政策で「気配り」ばかりを優先させないで、もっと分かりやすい言葉と論理で国際発信すべきである。

(新潟県立大教授・袴田茂樹 はかまだ しげき)

http://www.sankei.com/premium/news/160118/prm1601180015-n1.html

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