私は、逆進性緩和に繋がらず、消費者の選好と市場を歪め、益税や税務の煩雑化等、税制を非効率にする消費税の軽減税率にそもそも反対です。
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《【筋悪な軽減税率、批判しないメディア】~「給付付き税額控除」はどこへ?~》
2015.12.10 BLOGOS 安倍宏行
加工食品まで対象になってしまったことに驚きを禁じ得ない。一体、安倍政権はどうなってしまったのか。当初自民党は生鮮食品だけに絞っていたはずなのに、公明党に譲歩してずるずると後退し、対象品目を一気に広げてしまった罪は重い。
これで2017年4月に予定されている2%の消費税率引き上げの効果は最大で1兆円減じることになってしまう。財源は全て確保できておらず、4000億円から6000億円の追加財源をどうするかも決まっていない。何のための消費税率引き上げなのか。安倍総理は去年の解散総選挙前、「消費税の引き上げは、我が国の世界に誇るべき社会保障制度を次世代に引き渡し、そして子育て支援を充実させていくために必要です」と言っていたではないか。そして2%引き上げを18か月延期したのだ。必ず引き上げると言っておいて、軽減税率でその効果を大幅に減じる。こんなことがあっていいのだろうか?
小生が1993年大蔵省(今の財務省)担当記者だった頃、消費税増税は大蔵官僚の悲願だった。何とかして上げないと日本の財政は危ない、と彼らは真剣だった。ただ消費税は逆進性があるから必ず軽減税率が必要という議論が出てくるが、それだけは絶対ダメだ、と言っていた。その理由として、減税の絶対額で低所得者層より高所得者層にメリットが出てしまうことや、対象品目の線引きで業界内で大混乱が起きること、さらには事務手続きが煩雑でコストがかかり、想定している効果額が減じることなどが上げられていた。
そうした中で、代替案として浮上したのがカナダ方式と呼ばれる同国の連邦付加価値税GST(Goods and Services Tax)の控除制度だった。この制度は、簡単に言うと、「GSTの一部を低所得者向けに還付するもの」で1991年に導入された。日本で言う消費税に当たるGSTの逆進性を緩和する目的で作られた制度である。
その仕組みは極めてシンプルで、低所得者に対して、消費税相当額を所得税の中で税額控除・給付するものだ。控除は世帯ごとの収入により、家族構成と所得額に基づいて、給付額が決まる。年収およそ3万カナダドル(270万円:2015年12月10日時点で1カナダドル=約90円)以下は控除額が一定で、3万ドルを超えると控除額は低減していく仕組みだ。大雑把にいって、夫婦と子供二人、年収270万円の世帯で、年間約7万円が還付される。これは消費税の負担をほぼ控除する額になっている。
カナダ方式のメリットとして、制度がシンプルで行政コストが少ないことや、低所得者層を対象に給付が出来ることが上げられる。そしてなにより、消費税の逆進性を緩和する効果が大きい。既に軽減税率を採用しても逆進性緩和にはつながらない、との試算は数多く出されている。今回、この制度が検討されなかったことが不思議でならない。
軽減税率は逆進性緩和に繋がらないだけでなく、財政健全化にも悪影響を及ぼすという意味において「筋悪」な政策だ。来年の参院選をにらみ、公明党に配慮したポピュリズム政治の最たるものだ。一方で、大手メディアは軽減税率対象品目の線引きなどの報道に終始し、この問題を矮小化している。消費税増税が何のために必要なのか、原点に立ち返り議論しなければならないはずなのに、有権者にその観点が伝わらないのはメディアの責任である。