2015/12/02 10:05

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新建材CLT。軽くコンクリートに匹敵する強度で、欧州では既に普及。
日本の林業の再生に繋がると良いですね。

《日本の放置林が宝の山に?新建材CLTの実力》
2015.11.13 WEDGE Infinity 中西享(経済ジャーナリスト)

衰退する日本の林業の救世主として、薄く切った木材を何枚か直角に交わるように重ねたパネル状の新建材CLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー、直交集成板)の実用化に期待が高まっている。林業の再生に取り組んでいる林野庁はCLTの材料として日本の森林に眠っているスギ材を活用したい考えで、国土交通省は2016年度にはCLTを使った新しい建築基準を告示して地方創生の観点から政府全体で後押しする。

■ コンクリートに匹敵する強度

 CLTの特徴は同じ体積のコンクリートと比較して重さは約5分の1の軽さで、断熱、耐火、耐震性に優れている。現在、国交省が実験中だが、引っ張り強度はコンクリートに匹敵する強度があるといわれ、横方向からの力にも強さを発揮するため、地震の多い日本に適した建材とみられている。

 CLTを使うと建築現場ですぐに組み立てられるため、コンクリートを使った工事と比べて大幅に工期を短縮することができるメリットは大きい。欧州などでは1990年代ころから普及し、5~9階建てのマンションやビルがいくつも建てられた。オーストラリアのメルボルンでは12年にCLTを使った10階建てのマンションが完成、ウィーンでは24階建ての高層ビルが計画されている。

 しかし、日本ではCLT製造工場が現在でも3工場しかなく、CLTがJAS(日本農林規格)規格に決まったのも13年12月と最近のことだ。また、CLTを住宅の構造材料に使おうとすると、個別の案件ごとに国交大臣の認可が必要で、時間がかかるため、社員寮など特殊な建物から利用が始まったところだ。

 国交省と林野庁はこのままではCLTは普及しないとみて、13年度から15年度にかけてJAS(日本農林規格)規格を踏まえた、構造基準や防火基準について実験を開始、この結果に基づいてCLTを使った新たな建築基準を策定する。

 この基準ができれば、CLTを使った一般的な設計方法ができて、より多くの設計者が採用するようになる。同省は「現在の防火技術では4階程度のCLT建築物は建てられる。このほか鉄筋コンクリートの建物の床や壁などにも使えるようにしたい」(住宅局建築物防災対策室・木造住宅振興室)計画だ。

 期待が高まる中で、長崎県佐世保市にある大型リゾート施設・ハウステンボスに7月に開業した「変なホテル」の2期工事が始まった。2階建て3棟を来年3月までに建てる予定で、部屋の床や壁にCLTが全面的に使われる。このCLTを一手に供給したのが岡山県真庭市にある集成材メーカーの銘建工業(中島浩一郎社長)で、約600立方メートル分のパネルを製造して出荷した。

 原木は九州産のスギ材を使用した。このホテルの建設には鹿島、住友林業など大手ゼネコン、住宅メーカーが参加、認可に手間がかかることから敬遠していた大手ゼネコンもCLTの普及に向けて弾みになりそうだ。

 地域振興に取り組んでいる日本政策投資銀行が3月にまとめた「木造建築物の新市場創出と国産材利用の推進」と題したリポートによると、CLTがすべて国内で生産され、3階までの新規建築物を木造化した場合には1兆円、さらに利用範囲が拡大すれば1.9兆円の新規需要の創出効果があると推計している。

■ 町おこしの切り札

 岡山県北部に位置する真庭市はスギやヒノキの森林資源が豊富にあり、総面積の8割を山林が占める。全国的には木材加工が寂れる中、幸いにも真庭市には製材・加工業者が多く残っている。このため、森林の伐採から木材製品まで、川上から川下までの木材構造物のサプライチェーンがあるため一気通貫で建材を作れる強みがある。京都府副知事の職を投げうって生まれ育った真庭市の再生をスローガンに市長に当選した太田昇氏は「真庭市の森林にある木材を使ってCLTを作ってもらえば『地産地消』にもなる。東京オリンピックの選手村の宿舎にもCLTを使ってもらいたい」と意気込む。

 真庭市は木材加工に伴って発生するおが屑や木材片を活用したバイオマス発電を行っており、現在、1万キロワットの発電設備が順調に稼働している。バイオマス発電とCLT を両輪にして地域の活性化を図りたい同市は、「バイオマスツアー」にも力を入れており、「バイオマス産業杜市」として観光資源も売り出そうとしている。

 ほかの県でもCLT を町おこしに活用しようとしている。高知県大豊町にある高知おおとよ製材はCLT を構造材として使った3階建ての社員寮を昨年3月に建設、CLT 建造物第1号になった。パネルを現場で組み立てる工法を採用したため、わずか2日間で組み立てが完了し、その施工スピードの速さに工事関係者が驚いた。

 高知県も県内に伐採時期を迎えた豊富なスギを持っており、この資源の有効活用を推進するためにもCLTの需要が盛り上がりを期待している。このほか北海道、宮城県、新潟県、兵庫県など10の道県で普及のための協議会を設立するなど、国産材の利用拡大に結びつけようとしている。

■ 生産能力10倍に

 銘建工業の中島社長は国交省が来年春にもCLTの建築基準を決めることを見越して、本社の近くにCLT専用の新工場を建設中で、新工場の鉄骨はほぼでき上がっている。CLT の新基準が出てない段階で新工場の設備投資に踏み切るのは経営者としてリスクが大きすぎるのではないかとも思うが、CLT の将来性に賭けて決断をした。

 父親が銘建工業を設立し、中島社長は3代目で63歳。地元ではNPO法人「21世紀真庭の塾」代表を務めるなど、地元経営者の「希望の星」的存在だ。業界団体である日本CLT 協会会長を務め、新工場が稼働すれば断トツの生産能力を持つことになる。

 銘建工業は1923年に製材所として創業、1970年から集成材の生産を始めた。集成材製造のノウハウがあったことからCLTへの着目度が高く、2010年からCLTの製造を始めた。真庭市という森林資源が豊かな環境に加えて、中国地方を東西に結ぶ中国自動車道が開通したことで交通アクセスが大幅に改善、内陸部で製造する立地面のマイナスが解消された。現在の生産能力は年産4000立方メートルだが、来年に新工場が稼働すれば3年目以降は3万立方メートルにまで大幅に生産能力が拡大、需要があればいまの10倍に相当する4万立方メートルにまで増やす計画だ。

■ 「輸入材も混ぜる」

 国交省・林野庁のCLTの普及に向けたロードマップによると、16年初めに5万立方メートルの生産能力を実現、24年までに中層建築物(3~4階建て)の約6%がCLT工法に置き換わったとすると、同年には年間50万立方メートルの生産体制を構築する必要があると描いている。

 中島社長はCLT の原料となる材木の調達について「当面は国産のスギを中心に使うが、スギは強度の面でほかの材木に劣り、国産材には安定供給に課題がある。

 ヒノキ、カラマツなどの国産の樹種、あるいは輸入材も混ぜることで国産材の使用を増やしたい。国産材、輸入材を適材適所に配することが、国産材の有効活用につながる。原料をすべて国産材で賄うのは困難だ」と語った。

 その理由として、欧州は木材の伐採から加工までのインフラ設備が整備されており、日本とは効率面で大きな格差がある点を指摘、日本の材木が競争力をつけるためには、CLTなどの新しい木材需要を起爆剤として、林業を含めて生産効率の高い体制を作り上げることが不可欠だと強調した。

 行政の旗振り役として町おこしをしたい太田市長は「『地産地消』を推進するためには地元の材木をできるだけ使ってほしい」という立場だが、CLTで新規の事業を立ち上げようとしている中島社長は「そうはいっても、競争力のない国産材を無理して使うと製品の採算が取れなくなる。並行して国産材の強化することが必須の課題だ」とみており、ビジネスマンとしては譲れない一線がある。来年以降にCLT の新基準ができて本格的な普及が始まった段階で、国産材と輸入材の比率がどうなるかは未定だが、輸入材の方が安くて質が良いということになれば、太田市長が描く目算が外れる恐れがある。

■ 日本の森にとってラストチャンス

 日本は国土面積の66%に当たる森林面積は2510万ヘクタール、森林の蓄積は49億立方メートルある。国土面積は小さいが森林資源は世界屈指といえる。課題はこれが有効に利用されずに放置されていることだ。しかも、いまは利用可能な木材10齢級と呼ばれる樹齢46~50年の樹木が伐採時期を迎えている。にもかかわらず、世界第3位の木材マーケットに日本ではあるが、伐採してから製品化するまでの効率が悪いことから、多くが未使用のままになっている。

 木材自給率は1964年に木材輸入が完全自由化され、2002年には18・8%にまで落ち込み、その後、木造建築が見直されてきたことなどから、14年には31.2%まで回復した。30%台に戻したのは26年ぶりのことだが、現段階では輸入木材のシェアが圧倒的に高い。

 林野庁はCLT が新建材として注目されたことを林業再生のラストチャンスととらえており、国交省などと協力して木造住宅と住宅以外の木造建築物の需要を増やすことで、林業再生と地方再生を同時に実現できればと願っている。国内建築物のうち木造の割合が2階建ては約7割だが、3階建ては3割しかなく、4階以上はほとんどない。このため同庁は3階以上の新築がCLTに置き換われば、木材自給率が改善するのではないかと期待する。そうなれば、寂れる一方の林業が蘇る可能性もある。しかし、林業はこの10数年間、補助金頼みで何とか生き延びてきたのが実情で、効率生産により競争力をつけないことには、CLTの新規需要が生まれたからといって林業再生に結びつくかどうかは疑問視する見方もある。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5588