2015/05/27 0:58

《神戸が攻撃目標? 防衛省が懸念する「知られざる脅威」》
2015.05.25 dot.

 迫り来る“脅威”は意外にも身近にあるようだ―今国会で、政府・与党は平時と有事を問わず切れ目のない円滑な自衛隊運用が可能な安全保障の枠組みの整備を目指している。自衛隊が連携する他国軍を支援する新たな恒久法「国際平和支援法」と、集団的自衛権を行使できるようにする「武力攻撃事態法」の改正案など、安全保障法制関連11法案を、内閣は5月14日に臨時閣議で決定した。

 この法案が国会審議を経て成立すると、専守防衛に徹してきた日本の安全保障政策が大きく転換されることになり、自衛隊のあり方もまたこれまでとは異なったものになる。

「新たな安保法制の整備により自衛隊の活動が拡大され、円滑な運用が期待できる」

 実際に戦地に赴くことのない、防衛省内では“部員”と呼ばれる背広組の文官、若手キャリア(他省庁では課長補佐に相当)のひとりは鼻息も荒くこう話す。

 しかし実際に戦地に赴く可能性がある「制服組」の見解は少し異なっている。ある調達畑の元海将補は、「今、安全保障を巡る日本の現状は、まさに待ったなし」だとしたうえで、こう指摘する。

「いたずらに諸外国を刺激するようなことは必ずしもわが国安全保障上好ましくない」

 防衛省関係者によると、領土問題に揺れる尖閣諸島や竹島はもちろんのこと、かつてほどではないとはいえ、北海道もまた諸外国からの脅威に晒されやすい地として認識されている。本州よりも韓国のほうが近い町・長崎県対馬市、日本海側の玄関口である富山市、首都・東京もまた諸外国からの最初の攻撃目標として設定されやすい。

 だが、諸外国がもっとも狙っている都市は、意外にも「港町・神戸」だというのだ。なぜ神戸なのか。

「海上防衛で重要な役割をはたす軍事兵器・潜水艦を建造できる施設があるからだ」(前出の元海将補)

 日本の潜水艦はすべて「Made in KOBE」だ。潜水艦の建造を担うのは三菱重工業と川崎重工業。防衛省・自衛隊関係者の間では“三川”と呼ばれる2社、さらに神戸の造船所でしか潜水艦が造られていないためだ。

 軍事施設がないにもかかわらず、第2次世界大戦では住宅地の無差別攻撃にあった神戸は、戦後も軍需施設があるというイメージはない。しかし、意外にも軍事的にも重要な土地である。神戸には、潜水艦の建造施設、潜水艦や護衛艦などの海上自衛隊艦艇部隊の補給基地である阪神基地や、海自に飛行艇を納入する新明和工業の事業所がある。この事業所には、海自の飛行艇がメンテナンスにも訪れている。諸外国が軍事目標に定めやすい要素がここにある。

 もっとも脅威といっても、今の時代、神戸のような大都市に市民を巻き添えにする無差別爆撃など、直接的な武力攻撃に晒される可能性は少ないかもしれない。

 だが、想定されるのは局地的な攻撃だ。

 ゲリラを使って、建造中の潜水艦および潜水艦建造施設を破壊したり、飛行艇のメンテナンスを行う新明和工業の施設などを狙う恐れがある。

「潜水艦そのものよりも、むしろ建造施設の壊滅のほうがわが国安全保障上の打撃は大きい。これをやられると、その後の安全保障に責任が持てなくなる」(同)

 軍需施設の爆破に加え、予測される脅威はサイバーテロである。事実、2010年には三菱重工業のサーバーやパソコンがウイルス感染する事件があった。

 こうした企業の中枢機能につながるサーバーやパソコンへの攻撃は「潜水艦建造にも何らかのダメージを与えることも可能だ」(同)という。

 さて、サイバー攻撃を受けた三菱重工業では、2012年、神戸造船所の商船建造部門から撤退、今では潜水艦建造のみを行っている。これについて、海上幕僚監部関係者は新たな危機が生じたと明かす。

「潜水艦建造に特化したことが逆に目立ってしまい、余計に神戸が“軍事目標”として諸外国から注目を集めることになった」

 こうした脅威は“三川”の2社、新明和工業の関係者ももちろん把握している。潜水艦建造実績のある企業役員は、こんな危機感を示す。

「防衛省・自衛隊や兵庫県警察、海上保安庁、どこも特に手厚く警備をしてくれているとは思えない。それがまた脅威だ」

 今、議論されている新たな安保法制は、他国軍との連携の円滑化を目指すものだ。自衛隊の権限が拡大されるこの新安保法制が成立すれば、諸外国のわが国に向ける目はますます厳しいものとなる。その時、防衛省・自衛隊は、防衛産業に携わる企業を諸外国の脅威からはたして守り切れるのだろうか。

 防衛省・自衛隊が、防衛産業に携わる企業への直接的武力攻撃からの警備を手厚くする、サイバーテロへの対策を強化するといった施策を目に見える形で早急に打ち出さなければ、企業側は脅威への不安におびえ、防衛産業から手を引くことも有り得る。そうなるとわが国の安全保障はとても不安が残るものとなる。

 そもそも防衛産業とは、「収益性もさほど高くはなく祖業だからご縁としてやらせて頂いている」(前出の潜水艦建造実績のある企業役員)という側面があるからだ。

 神戸の防衛産業に携わる企業が抱える脅威は、全国の防衛産業に関わる企業にもつながってくる。今、政府の強い意志で新安保体制の確立が急がれるなか、こうした足元の安全にも気を配らなければ、そもそもの「安全」に大きな穴が存在することになる。急ぎ手を打つことが必要だ。

(フリーランス・ライター 秋山謙一郎)

dot.asahi.com/dot/2015052100008.html

事務所よりご案内