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《中国「利下げ」は経済自滅のシグナル 止まらない資金流出》
2015.05.17 産経新聞

 中国はこのほど、昨年11月以来3度目の政策金利引き下げに踏み切った。この利下げは景気ばかりでなく経済政策自体の八方ふさがりの表れであり、自滅のシグナルである。

 不況に陥った国は利下げにより内需を刺激すると同時に、利下げによって誘導される自国通貨安によって輸出をてこ入れする。中国の場合、当局は人民元相場を安くするどころか、逆に上昇させている。利下げで景気を暖めながら、為替政策で冷や水をかける。実に矛盾に満ちている。

 金融市場が自由化されていれば、市場原理が働く。外為市場では利下げと同時に人民元が売られて相場が下落するのだが、当局が介入して外為相場をコントロールする「管理変動相場制」の中国はあえて元相場を引き上げざるをえない。なぜか。

 まず、北京当局が元を切り下げると、かねてから「元は安すぎる」として元切り上げを求めている米議会を怒らせ、対中貿易制裁の機運に火をつけかねない。

 北京はしかも、元を国際通貨基金(IMF)の仮想通貨「SDR(特別引き出し権)」の構成通貨に加えるよう、IMFに働き掛けている。SDR通貨になれば、元はドル、ユーロ、円と同様、国際通貨として認定されたことになる。

 これに対し、IMF理事会で拒否権を持つ米国は時期尚早とみている。そんな中で、元を切り下げると、米国の猛反対で元のSDR通貨化の望みは完全になくなる。

 それ以上に、切実なのは、資金の対外流出である。グラフを見ていただこう。中国の外貨準備は昨年6月末をピークに減り続け、ピーク時に比べ昨年12月末で1500億ドル減、今年3月末2630億ドル減となった。中国は国際金融市場からの銀行借り入れや債券発行で合計年間3000億ドル前後のペースで外貨を調達しているが、それでも外準が大幅に減る。

 「世界一の外準保有」を誇っていてもみせかけに過ぎず、内実は外貨窮乏症に悩まされている。だからこそ、多国間銀行であるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の看板を掲げて、国際金融市場からの借り入れを容易にしようという算段なのだろう。

 利下げは通常、資金流出を加速させる要因である。金利の低い元預金を取り崩して、香港経由で外貨資産に切り替えるというのが、中国の特権層や富裕層の常である。それを食い止めるためには、元を切り上げ続ける必要がある。金利は下がっても、為替レートが強いままで変わらないとなれば、元建て預金は外貨預金に比べて目減りしないという期待が生まれるからだ。

 もちろん、「強い元」だけでは資金流出は止まらない。不動産相場が下落基調にある中では、やはりカネが逃げる。不動産がダメなら、株がある。党主導で上海株式市場に資金を誘導し、株価をつり上げる。利下げでさらに株価を引き上げる。半面で、上場企業の収益は悪化が止まらないので、株価は実力とはかけ離れるばかりだ。(産経新聞特別記者・田村秀男/夕刊フジ)

図:中国の外貨準備残高(兆ドル)と元・ドル相場

http://www.sankei.com/premium/…/150517/prm1505170022-n1.html