《“青田買い”本格化させる中国空軍 「東シナ海上空」想定? 中卒生徒を対象に空軍学校増設へ》
2015.03.31 産経新聞
中国空軍が空軍機パイロットを養成するために、入隊年齢に達しない14~16歳の男子生徒を対象とする“青田買い”を本格化させることが明らかになった。既存の高校に「空軍青少年航空学校」を併設し、毎年約1千人の中卒生を募集する計画で、国営新華社通信などによると、すでに吉林省など11省の16校が選ばれた。(北京 川越一)
中国空軍の申進科報道官は2月26日、同学校を設立し、「次世代の軍事航空・宇宙分野の人材を育成していく」と表明した。中国空軍は数年前から、吉林省実験中学(高校)、湖北省武漢市第六中学、山東省北鎮中学、四川大学附属中学の4校に「実験班」を創設。昨年、最初の卒業生を送り出した。
今回、教育省、公安省、人民解放軍総政治部は新たに、▽河北省石家荘市第二中学▽遼寧省瀋陽市第一中学▽黒竜江省鶴岡市第一中学▽江蘇省南京師範大学附属中学▽同省南通中学▽山東省実験中学▽河南省実験中学▽湖北省武漢市の華中師範大学第一附属中学▽湖南省長沙市周南中学▽同省常徳市第一中学▽四川省綿陽中学▽陝西省西安中学-の12校を選定した。
選定にあたっては、各地の模範的な高校であること、教師の力量が十分であること、優良な校風、学風を備えていること-などが基準となった。すべて開校から60年以上経過した“名門校”という。ここに空軍から派遣された教官が加わり、空軍機パイロットになるための英才教育を施す計画だ。
学校は全寮制で、生徒は国防教育や航空知識に関する科目に加え、軍事体育の授業や飛行訓練を受ける。もちろん授業料は免除。食費や軍服のほか、生活手当も支給される。吉林省の「実験班」の例では、毎月600元(約1万2千円)が支給されていた。
順調に空軍航空大学に進学、卒業すれば、空軍中尉の階級が与えられるというが、中国空軍が未来を託す精鋭だけに、入学資格を得るのは簡単ではない。
中国紙、中国青年報によると、身長163~178センチ、体重は48キロ以上、両目で1・0以上の裸眼視力が求められているほか、600点満点の高校入試で560点以上の成績を収めなければならない。過去の「実験班」の入試では、毎年、志願者2千~3千人のうち、20~30人程度しか合格していないという。
入学後は軍隊式の教育が待っている。「実験班」では、毎朝午前7時に、軍服や学校の制服を着てスクールバスから降り、隊列を組んで教室に入っていた。視力を維持するために、携帯電話やパソコンの使用は禁止されていたという。
空軍航空大学に進むには、一般生徒と同様に大学入試を受けなければならないが、飛行訓練などで、学業に支障が出るケースがあるらしい。しかし、やはり視力を落とさないために、夜更けまで勉強することはできない、というジレンマもあるようだ。
中国空軍が“青田買い”を進める背景には、今後予測されるパイロット不足も絡んでいる。中国誌「瞭望東方週刊」によると、中国の民間航空の発展は著しく、2013年から2020年の間に、パイロットが6万人不足するとの研究結果があるという。民間航空に先駆けて、優秀な人材を確保したいという空軍の狙いがうかがえる。
空軍関係者は同誌に対し、「一般的に著名なパイロットは飛行に接するのが比較的早く、名を上げるのも早い」と指摘。同誌は第二次大戦中、62機の敵機を撃墜し、「スターリンの鷹」と呼ばれた旧ソ連軍パイロットが18歳で飛行クラブに入ったことや、352機を撃墜したドイツの撃墜王ハルトマンが幼い頃から母親と飛び、14歳で正式に飛行クラブに入ったことなどを紹介している。
申報道官は空軍青少年航空学校の設立目的について、「パイロットに適した人材を早期に選抜し、軍の情報化に見合った育成を行っていく」「空に志を持つ青少年に夢を実現する階段を提供する」などと強調。「世界の主要国はパイロットの早期養成を重視している。軍に入るパイロットは、入隊前に多くの飛行経験がある」と述べ、“中国脅威論”を牽制(けんせい)している。
しかし、中国は海洋進出を進めると同時に、東シナ海上空に設定した防空識別圏の警戒監視態勢を強化する構えを見せている。空軍増強につながるパイロット養成に、周辺諸国の警戒心が高まる可能性もある。
http://www.sankei.com/world/news/150331/wor1503310003-n1.html