2015/02/25 18:53

《【国基研シンポ】ウォルドロン米ペンシルベニア大教授基調講演 「日本は最小限核抑止戦略を」》
2015.02.24 産経新聞

 残念ながら日本は現実的な戦争の可能性に直面しているのではないか。その戦争をどうやって回避するかについて話したい。

 1971年、当時のニクソン米大統領は世界をあっと驚かせた。中国共産党が中国を支配して以来、疎遠になっていた中国を訪問すると発表したのだ。当時の米国人は「冷戦が終わり、米中という2大国が再び友人になり、平和裏に共存できるのではないか」と希望を感じた。

 だが、現実は違った。

 中国は巨大で強力な軍を有し、2010年ごろから非常に強い態度で領土・領海の主権を主張するようになり、周辺国はおびえるという残念な状況だ。私は小さな軍事的衝突が起き、誰も予期しない深刻な戦争に発展する事態を心配している。アジア全体を巻き込むような、壊滅的な戦争に発展する可能性さえある。

 現在の米中は相互依存度が非常に高い。13年の2国間の貿易総額は5620億ドル。中国政府は米国債を1・3兆ドル保有している。13年から14年にかけて、米国への留学生は88万6千人だったが、その4分の1が中国から来た。

 ところが米中両政府の関係は決して緊密ではない。

 国連で米国が推す政策に関し、中国は必ずと言ってよいほど反対する。中国の軍備増強は明らかに米国を標的としている。中国メディアにはほぼ連日、事実と異なる下品な誹謗中傷記事を掲載している。米中はいつか大変な衝突を起こすのではないかと感じている。

 中国は非常に広範な地域で主権を主張している。インド北東のアルナチャルプラデシュ州から大きな弧を描いてインドネシア、フィリピン、日本など各国と係争地を抱え、韓国の離於島(イオド)や南沙諸島も自分の領土・領海だと主張している。

 このような主張に歴史的な根拠はないが、中国は「記憶にないほど太古から中国の領土・領海であったから、その主権を主張するのは当然だ」と言っている。困ったことに多くの中国人はそう信じている。

 1994年、長年中国の外相を務めた黄華氏と話した際、彼は「南シナ海に大きな岩とか環礁が点在しているが、いずれ中国は1つずつ拾っていきますよ」と言っていた。

 特に2010年以降、中国は軍事力で領土を獲得しようという意図を示している。ベトナム、インド、フィリピンと衝突し、定期的に日本を脅かしている。米国の通常の合法的な軍事行動にも介入し、妨害しようとしたりする。

 中国が戦略的な核保有国であることも忘れてはならない。300~3000の核弾頭を有しているといわれており、周辺諸国だけではなく米国にも弾頭を送り込む能力を持っている。

 では、なぜ中国はこのような歴史的神話に基づく危険な政策を進めるのか。

 中国は独裁政権が支配する。国内の不満を押さえ込むため、領土拡大プロジェクトを進めることにより、国民の怒りを米国や日本、その他の国に向かせようとしているのではないか。

 中国の核の脅威にさらされても平和主義と戦争回避を貫く日本の政策はもはや現実的ではない。

 米政府は表向き、日本が攻撃されたら必ず守ると公言してきたが、私はこの言葉を信じない。嘘だと思う。東京が攻撃されたら米国は核ミサイルを本当に発射するか。米本土が攻撃されていないにもかかわらず、大統領が核兵器を使うことはまず絶対にない。米国は「核の拡大抑止」「核の傘」という言葉を使ってきたが、これは神話だ。

 つまり各国は自分の核を持たない限り、最終的に1国だけで侵略国に立ち向かう状態になってしまう。

 英国とフランスは米国の同盟国だが、最終的に米国が守ってくれるとは思っていないので「最小限核抑止戦略」をとっている。少数の原子力潜水艦が核ミサイルを搭載し、もし自国に攻撃があれば、何千マイル離れていても核弾頭を相手国に発射する態勢を整えている。

 英仏の核抑止力は自ら戦争を始めるには小規模すぎるが、自国への攻撃を抑止するには十分だ。

 私が日本人であれば、英仏のような最小限核抑止戦略をとるべきだと思うだろう。そうすれば侵略から自国を守ることができ、日本自身が侵略国になることもない。日本が核を保有することに米国は反対するかもしれないが、アジアと世界の平和は強化される。

 逆に最小限の核を持たなければ、他国に攻撃された時、日本は完全に孤立してしまうであろう。

◇     

 アーサー・ウォルドロン 米ペンシルベニア大教授。アジア、特に中国史、戦略研究が専門。ボストン生まれ。米ハーバード大を首席で卒業。国際評価戦略センターを創立し、副理事長に就任。他のシンクタンクや大学でも活躍しており、米中央情報局(CIA)の特別委員会外部専門家も務める。

http://www.sankei.com/politics/news/150224/plt1502240056-n1.html

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