《日本がサンドバッグから脱するとき》
2015.02.09 iRONNA 『Voice』 2015年3月号 ケント・ギルバート
■ 韓国はプロパガンダ戦略が下手
今年1月16日付『産経新聞』の一面に「『慰安婦小説』米浸透を画策」という驚くべきニュースが報道されました。「20万人の強制連行された韓国人慰安婦の悲劇」について書かれた米国人作家による小説『Daughters of the Dragon(竜の娘たち)』を韓国系の団体が売り込む活動を展開している、というのです。さらに『ニューヨーク・タイムズ』の書評ページには本書の広告まで掲載されました。
米国では、こうしたプロパガンダ作品が話題になる伝統があります。アメリカ同時多発テロ事件へのジョージ・W・ブッシュ政権の対応を批判したマイケル・ムーア監督の『華氏911』のようなドキュメンタリー作品や、オリヴァー・ストーン監督がケネディ大統領の暗殺の真相として描いた映画『JFK』が有名ですね。こうした作品に共通するのは、歴史に精通していない制作者が自らの思い込みを作品に当てはめている点です。しかし、アマゾンで何百ものレビューが書かれ、大部分が4つ星と5つ星の評価をされています。もちろん言論の自由があるので、公開中止や作者が弾圧を受けることはありません。
『竜の娘たち』についていうと、韓国系団体による過度の売り込みにより小説のプロモーションとしては成功したといえるでしょう。しかし、作品内容の信憑性がない以上、徐々に話題は薄れていくのではないでしょうか。韓国はこうしたプロパガンダ戦略が下手な気がします。その点では、中国のほうがしたたかで狡猾だと思いますね。
では、日本はこうした反日プロパガンダに対して、ただ手をこまねいているだけでよいのでしょうか。むろんいけません。対策の一つは、外電の力を利用することです。具体的には、この小説の従軍慰安婦に関する認識がいかにデタラメで事実誤認に基づくものであるかを証明するような記事を、たとえば『産経新聞』に掲載し、それをロイター通信などに拾ってもらう。内閣府にも外電担当がいますし、日本に好意的な外国人は必ずいます。このように、海外メディアの力を借りながら日本の主張を発信していくことが大切です。先ほど例に出た『JFK』公開時は、新聞のレビューや論説に史実の誤りを指摘する文章が目に留まりました。同じ事に日本メディアが取り組めばいいのです。
ここで、忘れてはならない情報をお伝えしましょう。日本の代表的な英字新聞『ジャパン・タイムズ』のことです。あの天下の『朝日新聞』さえ「慰安婦の強制連行はなかった」と認めたのに、『ジャパン・タイムズ』はいまだに「慰安婦問題を引き起こしたのは日本のせい」の一点張りです。極左とでもいうべきか、まったく日本側の立場を取材して書かない。もはや読む気が失せますが、『ジャパン・タイムズ』が海外から見ると、「日本の声」として判断されてしまう。この現実から目を背けてはいけません。
映画といえば、アンジェリーナ・ジョリー監督の『アンブロークン』も昨年末に米国で公開され(1月末日段階で日本での公開は未定)、反日的な内容が含まれていることが話題を呼んでいます。1936年、ベルリン五輪の陸上5000mに出場し、太平洋戦争で日本軍の捕虜となったルイス・ザンペリーニ氏の半生を描いた作品です。同氏が捕虜収容所で看守の日本兵に虐待を受けるシーンが、正しくない歴史認識のもとに描かれています。この場合は、日本政府がムキになって反論してもアメリカは無視するでしょう。自国の軍隊に関わる話だからです。
私はこの作品のレビューをたくさん読みましたが、幸い日本が悪い、憎い、許せないという方向には進んでいません。ほんの一場面、事実無根の日本軍による悪行を描いているだけで、そこまで深刻に抗議するほどではないでしょう。むしろ、アンジェリーナ・ジョリーがこの騒動で日本のファンを失い、ほかの彼女の作品の評判まで落としてしまったと思います。そちらのほうが残念ですね。
万が一、この作品によって日米の国民感情が過剰に煽られることがあれば、そのときは日本が誇るスポークスマン――たとえば渡辺謙さんのようなハリウッド俳優をPR役に立てて、日本のポジティブな印象を出すべきでしょう。政府が関与する問題ではありません。私も何かしてあげたいですが、残念ながら米国では無名ですからね……。
■ 有罪が証明されるまでは無罪
正直にいうと、昔は私も戦時中、日本軍が韓国人女性を強制連行したと信じていました。深い根拠があったわけではありません。新聞の報道や関連書籍のストーリーを漠然と正しいと思い込み、わざわざ事実を確認するまでに至らなかったのです。「約20万人の被害者数は多すぎないか」とは思いましたが、日本軍が悪行を働いていたという先入観が働き、慰安婦の強制連行を疑ったことはありませんでした。
昨年8月に、『朝日新聞』が慰安婦問題の誤報を特集した記事を目にして衝撃を受けました。それから私は自戒を込めて、日本人が外に向けてきちんと反論できるよう手助けがしたい、と決意したのです。
慰安婦自体は、あらゆる戦争において例外なく存在します。戦後の日本や韓国にも、米兵を相手にした慰安婦が働いていました。ドイツやイタリアでも同様です。そもそも「慰安婦は必要なのか」という問いに女性の人権の観点から応えれば、答えは“NO”でしょう。しかし、善悪を抜きにして「戦争に慰安婦あり」というのはいまも昔も変わらぬ世の習いです。日本だけが責められる理由は何もありません。
日本の慰安婦問題の唯一の争点は「日本軍が本人の意思に反して女性を強制連行し、性奴隷としたのかどうか」にあります。
1942年に日本軍によって占領されたインドネシアでは、軍令を無視した一部の日本軍人がオランダ人女性を「性奴隷」にしました(白馬事件)。この件に関しては明白な証拠があり、当事者は日本軍でも処罰され、戦後はBC級戦犯として有罪になっています。ところが韓国においては1991年になって初めて名乗り出た元慰安婦数名の証言だけで、客観的証拠は一件もありません。
民主主義国家には「推定無罪」の原則があります。「有罪が証明されるまでは無罪」なのです。
最近、私がブログに翻訳を掲載したところ大好評を得た米国人ジャーナリストのマイケル・ヨン氏は、テキサス州と韓国を比較検証した論文を書いています。論文内でヨン氏は、両者の興味深い共通点を挙げています。一つは、かつて独立国だったテキサスが1845年、アメリカ合衆国に自発的に編入された経過と、独立国だった韓国が1910年の日韓併合を通じて自発的に日本と併合した経緯とよく似ているという点。もう一つは、テキサス人と韓国人はそろって 感情的である点です(たとえ感情があっても、内に溜め込みすぎて過労死してしまう日本人とは大違いですね)。
ヨン氏の論文を翻訳したブログ記事には、2万5000人以上の「いいね!」が押され、たくさんの人にシェアされました。慰安婦問題の嘘を周知するのにかなり役立ったと思います。この誌上を借りて、ヨン氏に深く御礼申し上げます。
■ IWG調査の誤算
今年に入り、もう一つ驚いた新聞記事があります。米国で最もリベラルな新聞『ニューヨーク・タイムズ』と『ワシントン・ポスト』がそろって「20万人という従軍慰安婦の数字はありえない」と記したことです。いまや強制連行20万人説を主張しているのは韓国人だけです。『朝日新聞』の慰安婦をめぐる記事は、韓国の新聞でも見開きで紹介されました。人びとの感情を焚き付け、日本政府からカネをふんだくれると皮算用していた人たちはともかく、純粋な感情で騙された韓国人の皆さんには謝罪すべきでしょう。
日本政府は慰安婦の強制連行の存在を一度も認めていません。「河野談話」も同様です。それは過去に多くの歴史学者が調査しても、有力な証拠が何一つ見つかっていないからです。いまだに「強制連行された慰安婦が性奴隷にされた」と言い張るような人たちは、IWG(The Nazi War Crimes and Japanese Imperial Government Records Interagency Working Group)の報告書を読めばいい。間違ってはならないのは、IWGの調査はけっして合衆国政府の意向で行なわれたものではなく、米国の抗日華人ロビー団体による圧力のもとに実施されたということです。要するに、日本のアラ探しをするために反日中国人が焚き付けて調査を敢行したのです。日本の戦争犯罪資料を調べるために、米国納税者の約3000万ドルを費やし、移民局やFBI、CIAなど、全米の省庁を巻き込む大調査となりました。
ところが、IWGは慰安婦強制連行の証拠を何一つ見つけられなかったのです! この調査報告は2007年4月、米議会に提出されましたが、抗日華人ロビー団体が望んでいた結果ではなかったので、とくに話題にはなりませんでした。それでも「強制連行された慰安婦が性奴隷にされた」と断言する人びとの思考回路がまったく理解できません。
■ 中国と韓国は戦勝国ではない
最近はアメリカ人も少しずつ、一部の韓国人が非理性的に日本を叩いている構造に気付いてきました。昨年、韓国で朴槿惠大統領の名誉を傷つけたとして、産経新聞前ソウル支局長が在宅起訴されました。どう対応すべきか尋ねてきた『産経新聞』の記者に対して、私は「何もしなくていい」と答えました。拘束されて日本に帰れない支局長はお気の毒ですが、とりあえず彼が殺されることはありません。それならば、しばらく放っておいて韓国当局の愚かな振る舞いを世界に晒したほうがいいのです。
私が中国と韓国を見て理解に苦しむのは、両国が第二次世界大戦における戦勝国だと自称することです。そもそも、この二国は戦争に参加していません。朝鮮半島は日本の一部でしたから韓国という国家は戦争中に存在しません。いま韓国人と呼ばれる人たちの先祖は、日本人として敗戦の日を迎えたのです。そして現在の中国(中華人民共和国)を支配する中国共産党は背後からゲリラ活動をしていただけで、実際に日本と戦ったのは国民党です。しかし国民党は、日本に対しては負けてばかりで、第二次世界大戦後に再開した国共内戦では共産党にも敗北し、中国大陸を追われました。はっきりいって、世界の歴史を見て、日本に勝ったのは米国だけです。彼らが日本戦に関係する「記念日」を祝う権利がどこにあるのでしょうか。
韓国は戦後、独立国として日本と日韓基本条約を結び、莫大な額の賠償金も得たわけです。国際法の約束として、条約に調印した。つまり結論が出た以上はもう二度と蒸し返さないのが当然です。そもそも、父親である朴正熙大統領の大きな功績を踏みにじり、世界中に恥を晒し続ける朴槿惠大統領は何を考えているのでしょうか。
■ やられたら「やり返せ」
日本人に求められるのは、もっと積極的に各国に対して自らの主張を訴えることです。日本は戦争の責任を重く受け止め、謝罪ばかりしていますが、そもそも世界を見渡して、日本のほかに謝罪をした国がありますか。たしかにドイツはユダヤ人の虐殺に対して謝罪しましたが、これは当然です。しかし英国が植民地化したインド、香港に対して謝罪した話は聞いたことがありません。
では、なぜ日本にだけ謝罪を求めるのか。端的にいって、弱々しく見えるからです。日本は世界から見ると叩きやすいサンドバッグなのです。この状態から脱するには、憲法を改正して「竹島に手を出すな」「尖閣諸島に近づくな」「小笠原近辺でサンゴ礁を不法乱獲したら、砲撃して沈没させるぞ」と宣言しなければなりません。
以前、私の息子が学校でいじめられたことがあります。私は息子に「やり返せ」といいました。私がいったとおり、いじめっ子に反撃した息子は学校の規則で停学処分を受けました。それは規則だからべつに構いません。父親の私にこの件で怒られるのではないかと息子は恐れていたようですが、私はまったく怒りませんでした。むしろ息子が自分の権利のために立ち上がったことが嬉しかった。日本も、そろそろ祖国の尊厳のために立ち上がるときだと思います。
具体的には、日本は政府主導で「戦争における女性の人権を研究する会」を発足させ、各国に参加を呼びかけるような活動も考えるべきです。反省の意は忘れず、諸国と共同研究して「今後の女性の人権のために貢献したい」と呼びかけてはいかがでしょう。ベトナム戦争で民間人へ残酷な行為を犯した韓国は参加できないと思います。その現実を海外に発信すればいい。この研究に参加しない韓国の姿勢をニュースにすればいいのです。「歴史の真実に正面から向き合いたい」という日本の誠意も全世界に伝わります。
ちなみに、私が知るかぎり、レイプや虐殺が世界で最も酷かったのはソ連赤軍です。極論すれば、ソ連の戦争犯罪が酷いのは、慰安婦が存在しなかったからでしょう。慰安婦がいないから、前線で手当たり次第に婦女を暴行する事例が多いのではないでしょうか。
つい最近、クリントン政権の一員だったロバート・シャピロ元米商務省次官が韓国の朴槿惠大統領に宛てたビデオメッセージがYouTubeで公開されました。経済学者の観点で韓国経済に提言をするだけでなく、日本への敵対的な態度やベトナム戦争での韓国軍の蛮行にも触れています。「(日韓関係の)古傷が治癒しない理由がここにある」と、慰安婦問題についても言及しています。一部に事実誤認もありますが、大筋は事実に基づく内容です。私の記憶を辿っても、一国の大統領にこういった公開レターが出されるのは前代未聞です。それだけ韓国の最近の振る舞いは目に余る、ということです。
■ 憲法9条は米国からの「制裁」
私はタレントとして知られていますが、じつは法学博士でカリフォルニア州弁護士の資格ももっています。その観点から日本国憲法についても考えたいと思います。1988年に書いた『ボクが見た日本国憲法』(PHP研究所)で、私は日本の憲法9条を称賛しました。すでに事実上の軍隊である自衛隊が設置されていたので、9条の条文自体はそのままでも構わないと考えたからです。でも、いまは考えが180度変わり、すぐに改憲すべきと思っています。理由は明白で、27年前といまでは日本を取り巻く情勢が大きく変わったからです。日中関係が安定していた当時は、9条に書かれた理想論にも一定の価値があると考えていましたが、強硬な中国の姿勢を見て、考えを改めました。
中国の経済力がいまほど高くなく、愚かな振る舞いが国内に留まっていたあいだは、米国の監視下で、日本は国防のことは考えず、経済発展のみに集中できました。ところが、2000年代半ばから社会主義市場経済が軌道に乗った中国が国力を伸ばし、帝国主義的振る舞いが目に余るようになりました。しかし米国も、かつてほど「世界の警察」の役割を担えなくなってきたのです。
日本国憲法にはおかしな点が二つあります。一つ目は、国家元首が明示されていないことです。天皇は日本の象徴であって、代表者ではない。他国の憲法ではありえないことです。二つ目は、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という憲法9条・第1項の条文です。日本国の憲法を起草したアメリカ人はどうしてこの条文を盛り込んだのでしょうか。日本が平和国家になることを心から願っていたからか、それとも自分たちの理想を追いかけようとしただけなのか。どちらも違います。これは米国に刃向かった日本に対する制裁措置・ペナルティなのです。9条のような条項を含む憲法は世界のどこを探してもありません。
戦後のGHQによる占領政策のなかで、日本の今後について書かれた報告書があります。民主化や財閥解体、教育改革などの政策は書かれていますが、「平和憲法」に関する項目はありません。9条が、あくまで米国からの「制裁」でしかなかった何よりの証拠です。
憲法の作成自体はじつは難しい作業ではありません。法学を学んだ私からすれば、憲法の全条文など3時間で書ける代物です。アメリカ建国のときは前例がなくて大変だったと思いますが、二百数十年が経ち、古今東西さまざまな憲法が制定されたので、民主主義国家のものなら容易に書けます。独裁国家の憲法は別として。
そろそろ、平和ボケしていた日本人も目を覚ましたほうがいい。日本人は「いまの時代にそぐわないなら、変える必要もあるのではないか」という疑問を抱くべきです。憲法を時代や環境に合わせて手直しすることは、世界標準の考え方なのです。今年は戦争終結70周年の節目の年です。だからこそ、政府だけに頼らず一人一人の日本人が自国を取り巻く外交の現状や史実を理解し、外に目を向け主張することを始めるべきです。周辺国の執拗な言い掛かりに屈せず、日本の主張がより世界へ広まる年になることを心から願っています。
■ ケント・ギルバート(米カリフォルニア州弁護士・タレント)
1952年、米アイダホ州生まれ。71年に初来日。80年、国際法律事務所に就職して東京に赴任。TV番組『世界まるごとHOWマッチ』に出演し、一躍人気タレントへ。最新刊は『不死鳥の国・ニッポン』(日新報道)。公式ブログ「ケント・ギルバートの知ってるつもり?」で論陣を張る。