2014/11/10 12:17

「日本が強くなれば、中国が日本と戦争したときのコストは大きくなる。そうすると戦争はしない。日本が中国との戦争を防ぐには、日本の軍事力を大きくすることだ。大きくすると平和になる」。こんな当たり前の事が、世界の中で一部の日本人だけが分からない。愚かです。

《【正論講演】中国は日米と戦争するか スケープゴートは日本 尖閣に手を出す可能性は「ある」 防衛大・村井教授》
2014.11.10 産経ニュース

 群馬「正論」懇話会の第36回講演会が10月30日、前橋市の前橋商工会議所会館で開かれ、防衛大教授の村井友秀氏が「東アジアの『戦争と平和』」と題して講演、パワーシフト理論を使って米中、日中間で戦争が起きる可能性を分析し、「米中は戦争しないが、日中は起こり得る」と指摘。戦争を抑止するために、日本が軍事力を増強する必要性を訴えた。詳報は以下のとおり。

■ 軍事力の変動から説くパワーシフト理論

 戦争が起こる仕組みをパワーシフトの理論を使って説明したい。この理論は過去500年間に欧州で起きた200件の戦争について言えることだ。

 仮に今、Bという国がAという国よりも軍事力の点で優位で、B国がA国に追い付かれそうになっているとする。この状態でB国がA国に仕掛ける戦争を「予防戦争」と呼ぶ。逆にA国がB国をすでに追い越し、追い越したA国が自国の優位を固めるためにB国に起こす戦争を「機会主義的戦争」と呼ぶ。戦争には、この2種類しかない。戦争は軍事上、強い方が始める。

 予防戦争の例を挙げると、1941年の日米戦争が当てはまる。当時の国力は米国を5とすると、日本は1。それなのに、なぜ日本は戦争を仕掛けたのか。日本の方が強いと思ったからだ。なぜか。太平洋に展開できる海軍力は日本の方が上だったからだ。

■ 米中間のパワーシフト

 今、米国と中国の間でパワーシフトが起こっているといわれている。この理論において、戦争が起きやすい軍事力の差はプラスマイナス20%ぐらいといわれている。圧倒的な差が付くと戦争は起きない。戦争をしなくても圧倒的な差があれば、弱い方は言うことをきくからだ。

 米中間のパワーシフトを考える上で重要なのは、どの場所で衝突が起こるかということだ。(米ハーバード大教授の)ジョセフ・ナイ氏は「米中間のパワーシフトは起こらない。今の実力は米国を10とすると中国は1。軍事力が将来にわたって逆転することはない」といった。しかし、この議論は雑だ。これでは日米戦争を説明できない。

 これを説明するには、軍事力は距離が遠くなればなるほど落ちるLSGという理論が必要になる。制空権は距離の2乗に反比例するといわれている。

 日本周辺の東シナ海、西太平洋でみると、米国の場合、軍事力はあまり下がらない。制空権がなければ制海権はなく、制海権がなければ、上陸(地上戦)はできないとされるが、米国の特徴は、航空母艦を多数抱え、肝の制空権が下がらない点だ。9万トンの空母なら90機、6万トンなら60機の戦闘機を載せられる。これは動く飛行場で、9万トンの空母が3隻あれば日本の航空戦力(約200機)に匹敵する。米国の空母は原子力で動くため航続距離も長いから、距離が離れても軍事力はほとんど下がらない。

 中国はどうか。何とか空母は造ったが、技術的な問題で、スピードが出ない。スピードが出ないと重い飛行機を飛ばせないから、それほど脅威にならない。

 今の戦争は何が攻めてくるか。戦艦でも飛行機でもない。ミサイルだ。中国は沿岸、陸上に数多くのミサイルを保有するが、中国が飛ばせるミサイルの距離はせいぜい600キロ。日本周辺で比較すると、米国の方が上だ。

■ 弱きをたたく航空母艦、強きをくじく潜水艦

 航空母艦の役目は何か。空母は自分より弱いものをたたくときに圧倒的な効果を発揮する。逆に強い相手には弱い。防御が脆弱だからだ。強大な相手には「走る棺桶」になってしまう。世界一の軍事力を持つ米国は、だから空母を世界中に展開している。英国とフランスも空母を持っているが、それは米国に対するものではない。自分たちよりも弱い相手に向けてのものだ。

 一方で、自分より強いものを相手にするときに有効なのが潜水艦だ。弱い国は空母ではなく、潜水艦を持つ。中国も、これまでは潜水艦を造り続けてきている。

 では、なぜ今、中国は空母を造ったのか。想定しているのは米国ではなく、東南アジア、南アジア。そう、自分より弱い相手に向けて、自分の強さを、より効果的に展開しようとしている。

 そういった点を考慮すると、現時点で米中間にパワーシフトは起こっていない。だから、米国と中国は戦争しないということになる。

■ 日中戦争は起こり得る

 日本と中国ではどうか。日本と中国では、パワーシフトが起こっているといわれている。戦争が起きる可能性が高いのは、米中ではなく、日中の方だ。

 では、日中間では、どういった戦争が考えられるか。

 戦争には、大・中・小がある。中国共産党は合理的な政府で、徹頭徹尾、損得の利害で動く。異質なのは韓国。あの国は利害関係を無視し感情的に走ることがある。中国は米国が出てくるような大規模な戦争はしない。負けるからだ。

 では、中規模なものならどうか。これも米国が出てくるから、やらないだろう。

 米国の国益の考え方には、死活的国益、戦略的国益、周辺的国益の3つがある。死活的国益は、例えば「9・11」(2001年米中枢同時テロ)だ。周辺的な国益では、例えばソマリア内線がある。ソマリアでは作戦中、米兵に死者が18人ほど出ただけで撤退した(1993年のモガディシュの戦闘)。「9・11」は、まったく異なる。

 日本を見捨てれば戦略的国益に影響が出る。「米国は同盟国を守らなかった」という評価が世界中に流れるのは、米国にも非常にデメリットが大きい。だから中規模な日中戦争なら米国は出てくる。中国はそう考えているはずだ。

■ 中国が考える日中戦の勝機は「米国抜き」

 中国が日本に勝てる条件は、絶対に米国が出てこないこと。この視点から問題になるのが、尖閣周辺などで想定される小規模な戦争だ。中国は小さい戦争なら米国は出てこないとみている。その根拠は何か。米国は尖閣について2つの立場、見解を示す。1つは「日米安保条約の適用範囲だ」という。一方で、領有権について「米国は中立の立場だ」ともいっている。これはどういう意味か。中国にも日本にも「尖閣に出てくるな」ということだ。双方を抑止しようとしているということで、だから中国は尖閣をめぐる戦争に米国は出てこないと思っている。

 日本と中国との間に戦争が起きないようにするには、どうすればいいか。それは、日本が単独でも勝てるようになるか、中国に米国が必ず出てくると思わせるかのどちらかしかない。しかし、米国が必ず出てくると思わせることは無理だ。なぜなら、あの国(中国)は同盟というものを信じていないからだ。

 だから、日本が単独でも勝てるようにするしかない。

■ 尖閣を先鋭化させたのは中国の国内事情

 中国が尖閣に手を出す可能性はあるか否か。私はあると思う。

 ここでスケープゴート理論というものを説明したい。

 そもそも、尖閣をめぐって日中関係が緊張しだしたのは、日本による尖閣の国有化とは関係がない。尖閣については中国は2008年から動き出した。中国は日本をスケープゴートにしようとしているからだ。その最大の原因は国内の暴力的なデモだ。中国ではデモが頻発している。年間10万件を軽く超えているだろう。しかもデモの特徴は大規模で暴力化、凶暴化している。体制にとって、これは深刻な危機なのだ。

 原因は何か。すさまじい国内格差だ。中国では今から20年前に経済改革が始まったが、当初は一部が富を得て、遅れて貧しい者も豊かになるといわれた。だが、そうはならなかった。格差は広がり、ひどくなる一方だ。金持ちしか偉くならない共産主義に、貧しい者たちが激しく抗議している。

 そんな内部でたまった国民の不満を外に向けて、目をそらそうとしている。日中間の緊張と日本の国内状況は関係ない。国内の緊張を外に向けて、緊張を一定範囲内に保とうとしている。だから緊張が下がりすぎると工船を日本領内に侵入させたりして緊張を高め、緊張が高まりすぎると下げる。今の中国の動きも、日本との関係改善をしようとしているわけではない。緊張関係を操作しているだけだ。

 中国のスケープゴートは日本でなければいけないのか。スケープゴートになるのは、国民的に盛り上がる存在でなければいけない。中国には日本以外にロシアという格好の国がいるが、中国は選ばない。ロシアは危険すぎるからだ。あの国は何をするか分からないところがあって、本当に怖い。逆に日本はちょうどいい、安全な敵なのだ。

■ 反日キャンペーン、中国の目的はアジアの覇権

 中国は今、世界中で反日キャンペーンをやっている。目的はアジアの覇者になるためだ。なぜ反日キャンペーンか。日本をおとしめるためだ。

 中国は経済力、軍事力などで日本を追い抜いたが、まったくかなわない決定的なものがある。ソフトパワーだ。ソフトパワーは、その国の影響力。いい国だと思わせる力、説得力。相手は、その国を信用し、言うことを聞いてくれる。今の中国には、その力が日本より遥かに劣る。だから中国は80年も前の日本を持ち出してきて非難する。80年前の日本と今の中国を比べようとしている。

 だから、中国の土俵で戦ってはダメ。今の日本、将来に向けた日本で勝負すべきだ。

■ 戦争と平和のコストから見る日本の道

 最後に今の日本はどうしたらいいか、述べたい。

 日本が望むのは中国と戦争しないことだ。日本には2つの選択肢がある。戦争でいくか、平和でいくか、だ。どちらを取るかは軍事的コストで選ぶ。戦争のコストが小さければ、戦争をする。大きければ戦争はしないで、平和的な手段を取る。合理的な政権であれば、そうする。

 日本の選択肢は軍事力を大きくするか、小さくするかの2つ。軍事力を小さくしたら日本と戦争したときの中国のコストは小さくなる。小さければ戦争をする。軍事力を大きくして日本が強くなれば、中国が日本と戦争したときのコストは大きくなる。そうすると戦争はしない。

 日本が中国との戦争を防ぐには、日本の軍事力を大きくすることだ。大きくすると平和になる。こういうメカニズムだ。軍事力を大きくすれば戦争になり、小さくすれば平和になるという単純な発想では平和は維持できない。これはローマ以来、つまり「平和を欲すればすなわち、戦争に備える」「軍備を怠るな」。それが平和を維持するためのポイントだ。これは2000年前からの世界の常識。日本は世界の常識に従うことだ。

 もちろん、こういう議論もある。日本が軍事力を拡大すれば、中国も軍事力を拡大する。戦争にはならないが、軍拡競争になる。確かに、これは大きなマイナスだ。戦争をすれば経済的に儲かるというのは、他国が戦争しているときであって、自分が戦争して得になることはない。

 では、軍拡したら損ではないのか。もちろん、コストはかかる。問題は、軍拡したときのコストと、戦争になったときのコストだ。軍拡したときのコストは軍拡競争というコスト。でも軍縮したら、その最大のコストは戦争になる。

 合理的な選択とは何か。最大の損害の小さい方を取ることだ。これが国際関係での合理的な選択で、だとすると、軍縮したときの最大のコストは戦争。軍拡したときの最大のコストは軍拡。私は戦争のコストの方が軍拡よりも大きいと思う。だから、より小さなコスト、すなわち軍拡を取る。

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 村井友秀(むらい・ともひで) 昭和24年、奈良県出身。48年、大阪大文学部卒、56年、東大大学院国際関係論博士課程を満期退学。専門は東アジア安全保障、中国軍事史。平成5年に防衛大国際関係学科教授に就任。「失敗の本質」(共著、ダイヤモンド社)、「中国をめぐる安全保障」(共著、ミネルヴァ書房)など著書多数。
http://www.sankei.com/premium/news/141110/prm1411100004-n1.html