北海道北端、稚内の西に浮かぶ国境の島、利尻、礼文。この両島でも、外国の横暴に対し政府が無力であるが故に、人が死に、そして泣き寝入りをさせられています。島と海と人を守る政治を作りましょう。 — 《【島が危ない 北の海の火種(1)】せり出す露軍艦、怯える北の漁民》 2014.10.08 産経新聞 北海道といえば、領土問題として北方4島がまず頭に浮かぶ。沖縄県石垣市の尖閣諸島と並び、常に国民の注目が集まっているが、ウニとコンブで知られる利尻島と礼文島も日本海側の国境を背負う国防の要だ。北方4島や尖閣諸島のように問題は顕在化していないが、この2島も日本と日本人を脅かしかねない火種を抱えている。対馬、佐渡島、五島列島に次いで、北の島の現状を報告する。 × × 9月初旬の礼文島。この時期には珍しく、快晴に恵まれた。車で香深(かふか)港フェリーターミナルから海岸線沿いに道道40号線を北に向かう。礼文島は8月24日、1日の降水量が183ミリと観測史上最多を記録する大雨に見舞われ、土砂崩れが発生。女性2人が死亡するなどの大きな被害が出たばかり。災害の爪痕が残る。 数十分走ると、案内してくれた礼文町の藤田敏春町議(59)が突然、「義理の弟がこのあたりでカニの運搬船に当て逃げされ、今も行方不明だ」と遠く海を指さした。 義弟の白取敏明さん=当時(52)=のホッケ刺し網漁船(5・9トン)が、金田ノ岬沖約11キロの海上でカンボジア船籍のカニ運搬船(203トン)にぶつけられ転覆したのは、平成17年7月7日の早朝だった。 運搬船はそのまま逃走したが、稚内海上保安部に業務上過失往来危険の疑いで摘発され、ロシア人1等航海士が逮捕された。航海士はその後、旭川地裁稚内支部で業務上過失致死罪などで禁錮1年6月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。 事件としては一件落着したかにみえたが、一家の柱を失った家族の前には理不尽な壁が立ちはだかった。 家族は損害賠償請求を検討した。だが、ロシア人船長は帰国して連絡が取れない上、船主も不明。結局、請求相手が分からず断念した。手にしたのは、差し押さえた運搬船の競売で得た百数十万円だけだった。 「結局、泣き寝入りするほかなかった」。藤田町議は無念そうな表情を浮かべた。 × × 車を島の最北限のスコトン岬に進める。遠くに樺太(サハリン)が望めるという岬の先には、群青色の日本海にトド島が浮かぶ。 「ロシアの密漁船はトド島の先で、密漁したカニを別の運搬船に積み替える。運搬船は礼文島の沖から宗谷海峡を通って稚内港に入る」。藤田町議は人さし指で水平線をなぞりながら説明した後、付け加えた。 「このあたりは軍艦の往来も多い。今は尖閣諸島ばかりが注目されるが礼文、利尻島沖も同じだ」 漁船への脅威は、軍艦も例外ではない。 同町の小野徹町長(64)も「密漁船だけではなく、ロシアの戦艦や潜水艦も航行しているのは間違いない」と断言する。 「いつ軍艦に衝突されるか不安だ」。まだ軍艦と衝突したというケースは判明していないが、漁民は軍艦の航行に脅えている。 × × 海上での危機は、隣の利尻島でも耳にする。 利尻富士町の漁師、佐々木修さん(49)は毎年、稚内市から南に約130キロ離れている羽幌町まで船体整備に行く。その際、カニの密漁船や運搬船が利尻島や礼文島の周囲を航行しているのを見かける。 「いない年はない。乗組員はロシア人だが、船籍はロシア船籍じゃないから、事故があっても、船主が分からない」。以前は銃器を積んでいた船も多くいたとも、佐々木さんは聞いた。 利尻富士町の田村祥三町長(60)は「銃撃されたことはないようだが、密漁船に追いかけられるなど恐ろしい目にあった話は何回も聞いた」と証言する。 同町の長岡俊裕町議(57)はこう警鐘を鳴らす。「この地域はロシアを相手に潜在的な危機感があるが、表面上、何も起きていないように見えるから、目が届かないだけなのだ」 (編集委員 宮本雅史) ◇ 利尻島 北海道北部、日本海上に浮かぶ円形の島で、面積182・1平方キロ。中央にそびえる利尻山(標高1721メートル)は多種多様な高山植物が生息、夏場は登山客のメッカになる。利尻富士町と利尻町の2つの自治体があり、人口は、8月末現在で、利尻富士町は2782人、利尻町は2259人。 礼文島 礼文水道を挟んで利尻島の北西に位置、200種類以上の高山植物が咲き乱れることから花の浮島とも呼ばれる。面積81・33平方キロ。人口は8月末現在で2728人。両島とも利尻礼文サロベツ国立公園に指定されている。 |