2014/07/30 17:11



強力なレーザーで空気の密度を変えた「空気の管」4本に囲まれた「空気の筒」を作り、その中を通して光の信号を伝達する「エア光ケーブル」。数ミリ秒の寿命だが、データの伝播には送信のみならず戻ってくる信号の受信にも十分な時間だと。実用化されたら凄いですね。
2014.07.26 GIZMODO

《超高速光ケーブルの素材はなんと「空気」》

夢が広がります。

データを光速に転送したければ光が一番。光より速いものはないので当然ですよね。けれど環境によっては従来の光ファイバーケーブルが敷設できない場所もあります。そこで科学者たちが考えた新しいアイデアとは、強力なレーザーを使用して空気の密度を変えることで「空気の筒」を作り出しその筒を通して光の信号を伝達するというもの。まさにエア光ケーブル!

メリーランド大学のHoward Milchberg博士とそのチームは、強力なレーザーを空気中に瞬間的に発するとフィラメントと呼ばれる細いビームが生成されることを発見しました。このフィラメントは通過する際に周囲の空気の温度を上昇させます。温められた空気は膨張するので、これにより低密度の空気の「管」が作られます。この空気の管は影響を受けていない周囲の空気に比べ屈折率が低くなります。鏡張りのチューブをイメージしてもらえると分かりやすいかもしれません(上の図の赤い管)。

7月22日に発表された論文で、Milchbern博士とそのチームは、このフィラメントを正方形にアレンジして放ち低密度の空気の管を4本生み出すことで空気の「筒」を作り出すことができると報告しています。この4本の管に囲まれた空気の筒の中に、より強力なビームを放つと、そのビームは拡散してしまうことなく筒の中に留まり対象目標に向かって伝播したとのこと(図の黒の矢印)。

もちろん、これら一連の出来事はあっという間に起こります。フィラメントそのものはなんと1兆分の1秒で消えてしまうんだそう。ただ「筒」を構成する低密度の空気の管が出現するのにはその何十億倍もの時間がかかるんです(それでも一瞬ですけど)。強力なレーザーのパルスにより作り出されるこの「エアケーブル」の寿命は数ミリ秒。短いようですがデータの伝播には十分な時間です。Milchaberg博士も言っていますが、レーザー伝播の世界では「ミリ秒は永遠」のようなものなんですね。

今回の実験で作り出されたエアケーブルの長さはわずか1mではありますが、エアケーブルを通して送られたレーザーはフォーカスを失わずエネルギーの損失もほとんどなかったとのこと。さらに重要なのが、このエアケーブルの寿命が送信だけでなく戻ってくる信号を受信するのにも十分なこと。Milchbern博士いわく「遠隔計測したいところへ、光の速さで光ファイバーケーブルを持っていき敷設して、今いる場所で信号を受け取るみたいなものです」だそう。

もしこの技術で長距離のエアケーブルが作り出せるようになれば、通常の光ケーブルが使用できない場所での通信や計測が可能になります。上空での通信や、空気汚染の計測、高解像度の地形図作成などに応用できるそう。今後の進展に注目です。

image: by Dr. Howard Milchberg
source: Eurekalert via GigaOM

Robert Sorokanich – Gizmode US[原文]
(mana yamaguchi)

http://www.gizmodo.jp/2014/07/post_15092.html