2014/07/13 11:20



「原発ゼロ」で迎える初めての夏。大規模停電とならないよう、改めて節電に努力しましょう。

《大規模停電への警戒怠るな…「原発ゼロ」で迎える初めての夏 論説委員・井伊重之》

 夏季の節電期間が今月から始まった。今年は初めて「原発ゼロ」の夏となり、深刻な電力不足が懸念されている。先週は全国で早くも今年最大の電力需要を記録した。しかし、政府は具体的な数値を定めた節電目標を見送り、自主的な節電の要請にとどめた。「企業活動に与える影響に配慮した」と説明するが、猛暑で電力需要が急増すれば、電力不足から大規模停電が発生する恐れもある。危機管理を含めた政府のエネルギー政策が問われている。

 節電要請は沖縄県を除く全国の都道府県を対象としている。7月1日から9月30日まで土・日と祝日、お盆期間を除いた午前9時から午後8時まで、「無理のない範囲での節電」を求めるという。

 東日本大震災直後の平成23年と24年の夏は、数値目標付きの節電を求めた。ただ、政府は企業や家庭の節電意識が浸透したとみており、昨年夏と今夏は数値目標は見送った。比較的余裕がある東京電力から西日本地域に電力を供給すれば、夏場を乗り切れるとの判断があったからだ。

 確かに節電意識の浸透でピーク時の電力需要は震災前より最大で10%程度減少したとされる。これは電気料金の上昇も理由の一つだ。だが、利用者の「節電疲れ」に加え、景気回復で需要の伸びも予想される。電力需給は楽観できる状況にはない。

 何より今夏は、稼働する原発がゼロのままで迎える。昨年夏に稼働していた関西電力の大飯原発3、4号機は昨年9月以降、運転を停止している。両機合計で約240万キロワットあった電力が今年は失われる計算だ。これ以外の原発も再稼働に向けた審査が遅れており、深刻な電力不足に陥る事態は否定できない。

 とくに震災前に原発比率が高かった関電と九州電力では、ピーク時の電力需要に対する余裕度を示す供給予備率が極めて低い水準にある。

 電力を安定的に供給するには、最低でも3%の予備率が必要だ。だが、東電からの融通がなければ予備率は関電で1.8%、九電はわずか1.3%にとどまる。東電の融通で何とか3%を確保したにすぎない。

 政府が前提とする電力融通は、あくまで緊急時に備えたものだ。「電力がどうしても足りない場合の最後の手段」(電力会社幹部)と位置付けられており、料金もかなり割高だ。それを最初から想定しなければ3%を維持できないような供給計画には、もともと無理がある。

 両社の供給力がいかに危ういかを理解するには、予備率ではなく、実際の供給力をみた方がわかりやすい。関電の余力は51万キロワット、九電では22万キロワットしかない。これは中規模の火力発電所1基がトラブルで運転を停止すれば、すぐ吹き飛んでしまう水準だ。

 原発停止の長期化に伴い、火力発電所のフル操業が続いている。この中には建設から40年以上を経た老朽火力も含まれており、今では火力発電全体の25%を占める。故障やトラブルが頻発していることも気がかりだ。

 九電は節電を始めた今月1日、相浦火力2号機(出力50万キロワット)がポンプの不具合で運転を停止。関電や九電などに電力供給している電源開発(Jパワー)の橘湾火力1号機(出力105万キロワット)も9日、ボイラーの蒸気漏れが見つかったため運転停止した。

 経済産業省も危機感を示し、電力業界に火力発電所の点検を求めたほか、西日本の電力各社に予備率の積み増しを要請した。これを受けて関電と九電ではそれぞれ20万キロワット程度を増やしたが、その中身は大口顧客に対し、需給逼迫(ひっぱく)時に電力使用を制限してもらう需要抑制が中心だ。原発ゼロのままでは供給力を大きく高めることはできない。

 夏場に気温が1度上がると、電力需要は関電で70万キロワット、九電では50万キロワット増えるとされる。需給逼迫が突発的な大規模停電に発展しないよう、地域を区切って順番に電力供給を止める計画停電などの準備も不可欠だろう。

 夏と冬に繰り返される電力不足を抜本的に解消するには、やはり安全性を確認した原発を早期に再稼働させることが重要だ。原発に対する世論はいまだ厳しい。だが、政府が世論ばかりを気にしていては、必要な政策は打ち出せない。政府には日本が原発ゼロのままでいる「リスク」も訴える責務がある。

 そのリスクとは、深刻な電力不足による大規模停電、あるいは海外の有事に伴う燃料途絶かもしれない。少なくとも「原発なしでも日本は乗り切れる」との過信は禁物だ。まずは官民が危機感を共有することから始めたい。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140713/biz14071310590009-n1.htm