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朴槿恵大統領、1998年の金大中政権の「太陽政策」以来の韓国の対北融和策が、何も得るものなく北の核・ミサイル開発に貢いだだけの失敗であった事を認める。そして、北の工作が浸透し、脅威を直視できない国民。

しかし、韓国の18年間の失敗を嗤う事はできない。我が国も、我が国を侮り侵害する隣国に対してほとんど同じ状況にあるではないか。

《韓国もようやく北朝鮮への幻想から目覚めたか? むしり取られた18年 「恩をあだで返された…」》
2016.02.24 産経新聞

 北朝鮮による核実験と長距離弾道ミサイルへの独自制裁として、韓国は南北経済協力事業の開城工業団地の稼働中断に踏み切るなど、対北姿勢を硬化させている。朴槿恵(パク・クネ)大統領自ら、北朝鮮の「体制崩壊」に言及し、強力な制裁で「必ず変化させる」とまで断言した。しかし、肝心の韓国国内では長年続いた対北融和政策などによって、北朝鮮への警戒感は相当、骨抜きにされてしまった。“南北和解の幻想”のツケが、今になって、韓国国内の現実問題として立ちはだかっている。(ソウル 名村隆寛)

■ 恩をアダで返された

 開城工業団地の稼働中断措置に、北朝鮮は工団に滞在する韓国人の追放と、現地の韓国側資産の全面凍結、工団一帯の「軍事統制区域」へ指定などを一方的に宣言しやり返した。

 これに対し、韓国の朴槿恵大統領は16日、国会で演説し、「従来のやり方や善意では北朝鮮の核開発の意志を変えられない。挑発に屈服し何でも与える支援はこれ以上してはならない」と断言した。

 「韓国の努力と支援に北朝鮮は核とミサイルで応じた」と非難した朴大統領。「韓国が事実上、核・ミサイル開発を支援する状況を続けることはできない」と述べ、金大中政権(1998~2003年)以来、韓国がとり続けてきた北朝鮮への経済協力などが失敗であったことを認めた。

 朴大統領によると、開城工団を通し昨年だけで1320億ウォン(約124億円)が北朝鮮に渡った。北朝鮮労働者の賃金などとして、これまで韓国から北朝鮮に渡った金額は6160億ウォン(現在のレートで約580億円)。しかも米ドルだ。

 さらに、「1990年代半ば以降、政府レベルの対北支援だけで22億ドル(同約2530億円)を超え、民間レベルの支援を合わせれば30億ドルを超える」(朴大統領)という。法外な金額である。北朝鮮がそのほとんどを腹を空かせた人民のために使うのではなく、核やミサイルの開発や金正日・金正恩政権のぜいたく品購入のために“浪費”したことは間違いない。

■ むしり取られ続けた18年

 朴大統領は政権発足当初から、対話を通じ緊張緩和を目指す対北朝鮮政策「朝鮮半島信頼プロセス」をとってきた。2年前の年頭の記者会見では「南北統一は大もうけだ」と明言し、朝鮮半島統一へのバラ色の夢を描いた。

 その180度転換は「今さら」の感もぬぐえない。ただ、韓国政府はようやく、これまでの北朝鮮に対する失政を認め、実行に踏み切った。

 北朝鮮を甘やかし続けた韓国の対北政策は、対北融和の「太陽政策」をとった金大中政権で始まった。金大中政権発足当初の1998年に、北朝鮮での「金剛山観光」が開始。2000年6月には金大中大統領(当時)と金正日総書記による初の南北首脳会談が実現し、韓国世論は“歴史的な会談”に沸いた。

 金大中政権下で、開城工団の計画は進められ、金剛山観光とともに、当初は「太陽政策の成果」として韓国国内では評価された。対北宥和政策は、続く盧武鉉政権(2003~08年)に引き継がれ、開城工団は04年に稼働を開始。南北経済協力の目玉事業は波に乗った。

 ところが、李明博政権(2008~13年)当時の08年、金剛山観光で訪朝していた韓国人女性が北朝鮮によって射殺されたことを受け、金剛山観光は中断。現在も再開されていない。また、2010年には、北朝鮮による韓国哨戒間撃沈事件や韓国・延坪島砲撃が起きた。

 それでも開城工団は、13年に北朝鮮による韓国側関係者の入境禁止で5カ月半の中断があったものの、操業は続けられた。

 金大中政権の発足時から数えれば18年。その間、北朝鮮は核実験を4回強行し、長距離弾道ミサイルの発射を繰り返した。韓国はやはり北朝鮮に裏切られ、むしり取られ続けていたのだ。

■ 北にナメられる韓国

 韓国は、金正日・金正恩の父子二代にわたって北朝鮮にだまされ続けた。北朝鮮の経済状況が行き詰まるなか、対話に応じただけで、韓国が人道や民族和解の夢を一方的に描き、感動し、金剛山観光で外貨を落としてくれた。開城工業団地という大規模な工場まで作ってくれ、カネを稼がせてくれた。まさに「棚からボタ餅」である。

 金正恩第1書記は金正日総書記から、韓国という“金づる”を遺産として受け継いだといってもいい。北朝鮮としては、自らにメリットがあるために、韓国からの協力に応じていただけだ。北からの再三の挑発にもかかわらず、「よくぞ長期にわたって稼がせてくれた」とでも言いたいところだろう。

 北朝鮮は韓国の足元を見ていた。おそらく今も。昨年8月に軍事境界線付近で起きた、北朝鮮による地雷爆発事件や砲撃の際も、韓国は「やられた以上のこと」はやり返していない。韓国軍当局者が当時、言っていたことが思い出される。「銃撃には銃撃。砲撃には砲撃」という言葉だ。

 北朝鮮は、応戦はするものの韓国が思い切った攻撃に出ないことを知っている。すべてが万事、韓国は北朝鮮になめられ続けていたのだ。朴大統領自身が、演説で口にした対北非難の言葉がそれを裏付けている。

 韓国国内では保守派、特に朝鮮戦争の経験世代や遺族、北朝鮮による拉致被害者の家族らの間に、手ぬるい対北政策への批判や冷めた見方が根強い。韓国政府はようやく対北強硬策に転換したが、一方では“失われた18年”に対する後悔や虚無感もある。

■ 対北融和策のもう一つのツケ

 時の大統領は自分の政権時の業績作りが大切なのだろう。ただ、金大中、盧武鉉というすでにこの世を去った2人の元大統領が躍起になって取り組んだ対北融和政策の罪は、特に重い。

 遅まきながらも、国会演説で北朝鮮の金正恩体制を猛烈に非難した朴大統領に、保守派の与党セヌリ党議員らは盛大な拍手をおくっていた。現場でその光景を見ていた感じでは、「大統領、よくぞおっしゃいました」という反応だった。しかし、韓国では長年の対北融和政策が副作用として残した大きな問題がある。

 親北と反北の思想対立。親北派の存在や対北融和派の存在だ。韓国では金大中政権以降、教育の現場でもそれまでの「反共・反北教育」は影を潜めていた。北朝鮮への警戒感は、特に若い世代で薄れてしまった。北朝鮮に対する意識は今、悲しいほどにゆるい。

 朴大統領自身、左傾化する教科書の検定制を見直し、教科書の国定化を訴えている。しかし、世論の反発は左派を中心に根強い。韓国政府が率先して進めた対北政策によって、骨が抜かれてしまった国民意識は、すでに修正が効かないところまできている。

■ 依然、希薄な危機意識

 韓国統一省は「開城工団から北朝鮮に渡った資金の約70%は朝鮮労働党の書記室や、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の秘密資金を管理しているとされる『39号室』などに上納されてきた」との分析を明らかにした。洪容杓(ホン・ヨンピョ)統一相は「資金は核やミサイル開発、ぜいたく品購入に使われている」と述べたが、韓国メディアは「証拠資料はあるのか?」と逆に統一省に詰め寄った。

 後に洪統一相が、証拠資料はないことを明らかにしたことで、韓国メディアの政府バッシングが始まった。野党や反政府勢力からは洪氏の更迭論まで出ている。これが韓国の今の姿なのだ。国際社会が北朝鮮のカネの流用を当然視し、核・ミサイル開発を非難している中でも、韓国では政府を信じようとしない者が多い。

 むしろ、「4月の総選挙を狙って、政府・与党は北の脅威を利用している」といった批判さえ、続出した。一体、そんな時間、ヒマがあるのか。日本からソウルに伝わってくる日本人の危機意識に比べ、韓国では一般国民のレベルで、驚くほど北朝鮮への危機感や当事者意識は薄い。

 こうした韓国国内の状況に朴大統領が危機感を抱いていることは、大統領の国会演説で明確に表れた。朴大統領は、北朝鮮による対南世論工作による「南南葛藤(韓国国内の世論の分裂と対立)」への警戒感を示し、「選挙への利用」などと政府攻撃に余念がない世論に対し「本当に胸が痛む現実だ」と心情を吐露した。さらに、「韓国内部でこんなことで揺れ動くことは、まさに北朝鮮が望むことだ。韓国内で分裂していてはいけない」とも訴えた。

■ 現実から顔背け

 金正恩体制に対する予測がますます困難となっている現実に直面し、口を酸っぱくして国民に訴えた朴大統領ではあるが、聞かない者は耳を傾けようともしない。大統領の国会演説中も、国会前では政府への抗議デモが行われていた。

 北朝鮮問題に携わってきた韓国政府のOBは、北朝鮮情勢を懸念する一方で「核実験や長距離弾道ミサイル発射はもってのほかだが、半面で韓国の若い世代に現実を知らしめる好機でもある」と言う。

 北朝鮮に危機感さえ抱かない者に対し、高齢期に入らんとするこのOBは、ほとんどお手上げ状態で、力なく笑う。悲しいかな、挑発を繰り返す北朝鮮が韓国の次世代にとって、皮肉にも、今や格好の「現実を知らしめる教科書」になっている。

 北朝鮮によって軍事統制区域にされてしまった開城工団の建物が今後、軍事要塞化したり、武器庫になったりする危険性もある。十分にあり得ることだ。そもそも北朝鮮は、そういう所なのだから。

■ 忘却の一方で北は

 問題は時が過ぎるにつれ、韓国国内で出始めた対北警戒論が忘れ去られ、北の脅威がうやむやになってしまうことだ。韓国哨戒間撃沈事件や韓国・延坪島砲撃など、これまで北朝鮮が武力挑発を起こすたびに韓国では対北警戒論は出た。しかし、そのたびに時間とともに、北の脅威は忘れ去られ、同じようなことが繰り返されてきた。

 朴大統領が演説で見せた危機感は、まさに前例の繰り返しから決別し、現実を直視しようというものだ。だが、いったんたるんでしまった意識を引き締めるのは大変だ。

 現在の韓国社会の状況が、ずばりそれを物語っている。北朝鮮の脅威にもかかわらず、ソウル市内では現在も左派系労組の拡声器が鳴り響き、ソウルの日本大使館前では元慰安婦支援団体のデモが続いている。北朝鮮の脅威や暴走の危険性は、まるで人ごとであるかのように。韓国国内が分裂し、不毛な政争や論争が続いている間にも、朝鮮半島の北側では核やミサイルの開発が続けられているにもかかわらず。

http://www.sankei.com/premium/news/160224/prm1602240003-n1.html

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