亡命中国人漫画家・王立銘氏
「天安門事件記念集会やウイグル人支援の活動、中国の民主化を求めるデモや集会に参加するのはほとんどが“右”の人々だ。“左”の人々の姿はまったくといっていいほど見かけない」
「言論の自由のない国から日本にやってきた、脱北者ならぬ「脱中者」にとって、日本政府権力の拡大を恐れる“左”の主張は理解するものの、現実的に存在している全体主義国家、中国と北朝鮮はそれ以上の脅威だと考えているからだ」
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《亡命中国人漫画家が語る「日本が“美しく”見える理由」》
2017.04.27 日刊SPA! 辣椒(王立銘)
■ 亡命中国人漫画家・辣椒(ラージャオ)「私はなぜ祖国に捨てられたのか」VOL.2
私は2017年1月、初の著書となる『マンガで読む嘘つき中国共産党』(新潮社)を出版した。おかげさまで大好評となり、2月28日にはトークショーとサイン会を開催して頂くこととなった。
東京大学の阿古智子教授、フリージャーナリストの高口康太氏もコメンテーターとして登壇してくださり、90人近い参加者を集める大盛況となった。日本人読者の皆さんの支持を本当にうれしく思う。
席上、阿古教授から次のようなコメントが寄せられた。彼女の友人から私の著書への厳しい批判だという。
私の著書は中国を批判する一方で日本はすばらしい民主主義国だと絶賛しているが、日本にもさまざまな政治問題があるというのに無批判に称賛するのはいかがなものか、という内容だ。
確かに日本では言論の自由をめぐる環境が悪化しかねないという懸念が広がっているようだ。
国際NGO「国境なき記者団」が発表した「報道の自由度ランキング」では、特定機密保護法の成立を受け、日本の順位は11ランクダウンの72位に低下した。政府権力の拡大を抱く人々は安倍政権を強く批判している。この懸念は私もよく理解できる。政府権力が極限にまで肥大した恐怖をよく知っているからだ。
■ 私の目に日本が「美しく」見える理由
一方で私がなぜ日本のすばらしさを強調するのか、その理由も知っていただければありがたい。会場では次のような比喩で私がなぜ日本を「美化」するのか説明した。
北朝鮮から中国に逃げ延びた脱北者にとって、飢餓と死の淵から脱出した脱北者にとって、中国はすばらしい国だろう。習近平にどんな問題があるとしても、金王朝が支配する北朝鮮よりはよっぽどましではないか、と。中国人が政府に文句を言えば、「中国はもう十分いい国なのに! なんで習近平に文句を言うの!?」と怒り出すかもしれない。
私もこの脱北者と同じだ。北朝鮮と同じ全体主義国家の中国から日本にやってきた。物質的条件には恵まれているが、それ以外の点では北朝鮮と中国はさほど変わらない。だから私にとって日本はすばらしく、美しく見えるのだ。
「報道の自由度ランキング」で日本は72位に転落した。当然、懸念すべき問題だろうが、中国の順位をご存知だろうか。
──176位。
下から数えて5番目だ。
中国は今なお言論の自由という面では暗闇の中にある。国際NGO「フリーダムハウス」が発表した世界のインターネット自由度のランキングでは65か国中最下位だ。
日本人読者の皆さんは生まれた時から「正常な国」で暮らしてきている。
「正常な国」とはなにか。
新鮮な空気が呼吸でき、安全な水と食べ物を手にすることができ、首相を風刺するマンガを書いても身の安全を気にしなくてもいい。皆さんにとってはこれら当たり前のことが私の祖国にはないのだ。
私と妻は日本で暮らしてもう3年近くになる。いつも散歩にでかけると、青い空と白い雲にうっとりする。そして道端の小川を泳ぐ鯉や水面を飛ぶ鳥、皆さんには当たり前の光景だろうが、私にはとてもすばらしいものに見える。中国の都市では青空も白い雲も得がたいものとなってしまった。空はスモッグに覆われ、川はドロドロに汚染されている。汚染こそが日常なのだ。
日本で役所に行くと、公務員は本当に親切に応対してくれる。旅行中、道を尋ねても丁寧に教えてくれたり、積極的に手助けしてくれたりする人が多い。日本人にとっては当たり前の行動に思われるのだろうが、中国で見知らぬ人が親切にしてきたら、まず詐欺を警戒する。詐欺を働く人が多すぎて皆が疑心暗鬼となっている。日本とは根本的に世界が違うのだ。
日本にもさまざまな社会問題があることは承知している。ただ中国のニュースを見ると、毎週のように深刻な事故が起き、人権派弁護士が弾圧され、環境汚染によって母乳にまで毒素が含まれるようになり……と心底ぞっとする話ばかりが伝えられている。日本とは比べものにならない、ひどい話ばかりだ。
こんなニュースばかりを見ている私が日本のような平和な国に暮らして、不満を抱くようなことがあるだろうか。
2015年7月、私は安倍政権に抗議する国会前デモに参加した。日本の左翼は中国の脅威を忘れてないかと風刺するプラカードを掲げ、激昂したデモ参加者に詰め寄られる場面もあったが、警察は私の言論の自由を守ってくれた。
2017年2月、新宿で在日中国人によるアパホテル抗議デモを見学した。日本の保守団体が集まり横断幕を奪おうと突撃を繰り返したが、警察は中国人の言論の自由をしっかりと守っていた。中国人の言論の自由まで守る警察、そのすばらしい姿は目に焼き付いている。
■ 本当の日中友好のために
2014年に日本に来てからずっと、私は日本の友人たちの支援を受けている。付き合いを深めるうちに友人たちの所属する政治的立場が分かるようになった。
友人たちは“右”と“左”とではっきりと分かれている。ラインを越えての積極的な交流はないようだ。
幸いにも外国人である私は左右双方の友人たちとの交流を続けることができた。そして気づいたのだが、天安門事件記念集会やウイグル人支援の活動、中国の民主化を求めるデモや集会に参加するのはほとんどが“右”の人々だ。“左”の人々の姿はまったくといっていいほど見かけない。
私はそうした集会に頻繁に足を運んでいる。それも私の日本での政治的立場が「きわめて右」に見える理由なのだろう。
言論の自由のない国から日本にやってきた、脱北者ならぬ「脱中者」にとって、日本政府権力の拡大を恐れる“左”の主張は理解するものの、現実的に存在している全体主義国家、中国と北朝鮮はそれ以上の脅威だと考えているからだ。
右や左という立場は捨て置いて、日本人全体が一致団結して、アジアと自由世界の敵である中国に向き合って欲しい。これが私の願いだ。
中国文化が大好きだという日本の友人はよく私に「どうすれば日中友好は実現するのか」と尋ねてくる。私はいつもこう答えている。
中国共産党の統治は外部に敵がいなければ成り立たない。日本への憎しみを煽り立てること、これが中国人を団結させるためのツールになっている。だから中国共産党が存在するかぎり、本当の日中友好はあり得ない、と。
中国共産党を解体させること、これこそが中国人に幸福をもたらし、日本の安全保障を実現させることにつながる。そして、解体した時こそ恒久的な日中の平和が実現する。共産中国が崩壊し北朝鮮が消滅したその時こそ、日本は自衛隊を不要とする時ではないだろうか。
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