フジテレビ報道局次長 石原正人氏の論説。分かり易いですが、フジテレビのニュース番組でこの様な報道をしていないのが不思議です。
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《新たな獣医学部は必要なのか? 加計問題を見誤るな!》
2017.06.02 ホウドウキョク フジテレビ報道局次長 石原正人
一部メディアが連日トップニュースで取り上げるのが、「加計問題」である。
この議論が、『「官邸の最高レベル」という文書はあるのか』という些末な問題になっているので、何が本質なのかを論じてみたい。
・50年以上獣医学部は新設されず。定員は1980年代から930人で固定
・吉川東大名誉教授…獣医師の「量」ではなく、「質」向上のために新たな獣医学部が必要
・獣医師会が公募を「1校に限る」よう陳情。
ポイントは、(1)日本に新たな獣医学部は必要なのか?
(2)それがなぜ加計学園1校になり、そこに官邸の指示があったのか? の2点だ。
■ 50年以上獣医学部は新設されず。定員は1980年代から930人で固定
まず、この問題は「官邸 vs 文科省」となっているが、「官邸・内閣府 vs 文科省・獣医学会」とする方がわかりやすい。
そのことを念頭に、獣医学部問題の展開を見てほしい。
日本の大学に、50年以上も獣医学部が新設されていない。
これは、参入を希望する大学がないからという理由からではなく、許認可権を持つ文科省が、告示で門前払いしてきたからだ。文科省は「獣医の数は地域による偏在はあるが足りており、需給バランスから、新設の必要はない」という立場で、この規制により、獣医学部の数は現状維持されてきた。
もちろん、大学予算が限られている中で、十分とは言えない既存の獣医学部の学習環境を改善するために予算を回したいという理屈も理解できる。
しかし、獣医学部の国立・私立大学の総定員は930人で、他の学部よりも非常に高い人気学部なのに、定員は1980年代から増えていない。
■ 福田、麻生内閣…「対応不可」。民主党政権も実現に至らず
そこに、風穴を開けようとしたのが、過疎と土地の有効利用に悩む愛媛県今治市だ。
2007年、福田内閣時代に、初めて獣医学部の新設を提案しているが、「対応不可」として却下されている。
その後、麻生内閣でも同様に、「対応不可」として、却下されている。
この流れが初めて変わるのが、民主党政権時代だ。
今治市は、鳩山内閣の時に、構造改革特区を生かして、「2010年度中をめどに速やかに検討する」というところまでこぎ着けている。なお、この当時から、大学設置母体は「加計学園」とされている。
しかし、文科省の規制の壁は高く、議論はなかなか先に進まない。
菅内閣でも「2010年度中をめどに速やかに検討」、野田内閣でも「2012年度中をめどに速やかに検討」としているが、実現するところまでには至らなかった。
■ 石破4条件を満たした場合は、獣医学部新設を検討
その後、再び自民党への政権交代が起こり、安倍内閣になるが、この流れは変わらない。
今治市の提案に対し、「2012年度中に速やかに検討」と同じ文言で、遅々として進まない。
そこで、国家戦略特区担当の石破大臣のもと、「日本再興戦略2015」の中で、石破4条件を満たした場合は、獣医学部新設を検討する方針を打ち出し、1歩前進させる。
ただ、この石破4条件は「既存の獣医師養成ではない構想が具体化していること」や「近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から検討」など4つあり、そんなに低いハードルではない。
■ 獣医師は全国におよそ4万人
そこで、石破4条件の1つともなっている獣医師の需要の問題を検証したい。
現在、獣医師は全国におよそ4万人。
その活動分野は、犬・ネコなどの小動物獣医師が4割、牛・ブタ・馬などの産業動物獣医師が1割5分、検疫や伝染病などに対応する公務員(厚労・農水・自治体勤務)獣医師が2割5分、その他が1割、獣医師を辞めた人が1割という内訳になっている。
今、犬・ネコ等の獣医師は増加傾向にあり、余っている一方、地方での産業動物獣医師等は不足している実態がある。
獣医師会等は、この実態を、「獣医師は偏在しているものの総数は足りている」と表現している。
地方でのこうした獣医不足の原因には、待遇の悪さが指摘されており、これを改善すれば、獣医不足は解消されるはずで、新たな獣医学部は必要ないというのが、文科省や獣医学会等の共通した見解だ。ただ、獣医師の国家試験の受験者数が、新卒者で毎年1,050人前後なので、実際は930人の定員以上の人数を受け入れている実態があり、定数930人で十分というのは、すでに破たんしている理屈になっているのも事実だ。
■ 国際的に通用する人材。総合的な危機管理ができる獣医師の育成
一方、2011年に、全国の獣医学代表者が「新しい獣医学教育の必要性」の声明を出している。
会長は吉川泰弘氏で、東大大学院を卒業後、獣医として厚労省に勤務、その後、東大医科学研究所に戻り、現在は、東大名誉教授を務めている獣医学のスペシャリストだ。
その声明では「近年、獣医学へのニーズが激変しており、それに対応できるよう、各大学に共通するコアカリキュラムを作成し、参加型実習による技術の向上を行い、国際的に通用する人材を育てることが必要」と訴えている。
■ 獣医師の「量」ではなく、「質」向上のために新たな獣医学部が必要
その吉川東大名誉教授が、今回の加計問題について、次のように書いている。
「2011年の声明以降の6年を振り返ってみると、大学関係者の努力により獣医学教育は随分変化してきていると思います。しかし、大局的には、しがらみを振り切って改革するのは容易ではないという現実も見えてきます」として、アメリカのような「全体を把握して総合的な危機管理ができる」獣医師を作るために、新たな獣医学部を作ることの必要性を訴えている。
つまり、文科省や獣医師会が主張する「量」の問題ではなく、次世代の総合的な危機管理ができる獣医師を作る「質」の問題として、新たな獣医学部に需要があるという主張だ。
■ 競争力がないところが退出できるメカニズムが必要
実は、焦点となっている昨年(2016年)11月9日の国家戦略特区諮問会議で、新たな獣医学部の認可をめぐるやり取りの中で、図らずも、こうした対立構図が出ている。
麻生財務相「法科大学院を鳴り物入りで作ったが、結果的に法科大学院を出ても弁護士になれない場合もあるのが実態なのではないか。だから、いろいろと評価が分かれるところ。似たような話が柔道整復師でもあった。規制緩和は良いことで大いにやるべきだ。しかし、上手くいかなかった時の責任は誰が取るのか。」
八田達夫委員「麻生大臣が言うことも重要な問題で、質の悪いものが出てきたらどうするか。これは実は新規参入ではなくて、従来あるものに、まずい獣医学部があるのだと思います。そこがきちんと退出していけるようなメカニズムが必要で、新しいところが入ってきて、そこが競争して、古い、あまり競争力がないところが出ていく。そうしたシステムをこの特区とは別に考えていくべきと思っております」
つまり、獣医学会と近い麻生大臣が「規制緩和の責任論」を展開してけん制したのに対し、規制緩和論者の八田委員は「競争させないと、ダメな学校でも退出させられない」として、既得権益を守る側に反論した形になっている。
以上から、(1)の新たな獣医学部は必要か否かについては、立場によって回答が異なるというのが理解できるが、前川前次官が「行政がゆがめられた」と主張する「行政」というのは、規制を守ってきた、これまでのルールをダメにされたという意味だろう。
しかし、国際的に通用する獣医学部のニーズに目をつぶり、定員をごまかしてきた既存の大学を守ることが、本来の文科行政なのだろうか。
現在、医学部、薬学部、獣医学部には、新設をめぐり同じ規制があるが、ダメな大学を退出してもらうために、この規制自体を見直しても良いかもしれない。
■ なぜ、加計学園1校だけになったのか
次に、(2)のなぜ、加計学園1校だけになったのかという点だ。
申請を検討していたのは、加計学園と京都産業大学の2つの大学で、京都産業大学が申請すらできなくなった条件変更は、官邸の意向があったのではないかという論点だ。
実は、獣医師会にとって最悪の結論は、2つの大学の申請が2つとも認められることだった。
既存の獣医師にとって、競争相手が増えることは望ましくないからだ。
そこで、獣医師会は、閣僚や省庁などへの陳情を重ね、ことし1月4日付の官報には「1校に限る」という文言が追加され、公募することに至ったという。
■ 政府側は、国民の疑問に真摯な対応が必要
そのことは、獣医師会の会員向けメールマガジンに「粘り強い要請活動が実り、何とか1校限りと修正された」と書かれていることからもわかる。
さらに、ある政府筋は、前川前次官の一連の発言を受け、「1校にしてほしいと言ったのは文科省なのに、何なんだ」と怒りを隠さない。
官邸サイドからすれば、国際的な獣医師を作る学校を1校に限る必要はないからだ。
そう考えると、官邸の意向で加計学園だけが申請できるように条件をつけたというロジックには違和感を感じる。
もちろん、国会で、野党側が政府を追及するのは当然で、そこに国民が納得できる理由があるのかないのかをはっきりさせる必要はあるが、やや質問が些末な部分にこだわっているのは残念だ。
政府側も、「あの文書は怪文書」、「再調査する必要はない」と木で鼻をくくったような対応をするのではなく、国民の疑問に対しては真摯な対応をする必要があるのではないだろうか。
前川氏の証人喚問に応じるのも1つの方法で、新規参入規制の実態について、徹底的に議論する良い機会だ。
そのうえで、日本の成長戦略のための規制緩和をより進めてもらいたいというのは、国民の期待に応えることだと感じる。
文:フジテレビ報道局次長 石原 正人
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