中国が、越南と衝突していた南シナ海パラセル諸島の掘削施設を撤収。予定より1月早い撤収は、越南の毅然とした対応と国際社会の圧力によるものです。南シナ海全域の領有を主張し続ける中国の侵略主義に、断固反対し続けなければなりません。 — 《中国、南シナ海パラセル諸島の掘削施設を撤収 米との対立回避狙いか/産経》 中国外務省の洪磊報道官は16日、中国の大手国有企業、中国海洋石油のグループ会社が、ベトナムと領有権を争う南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島付近で行っていた掘削活動を15日に完了したと発表した。 ベトナム沿岸警備隊のゴ・ゴック・トゥー副司令官も16日、掘削施設が撤収され、中国の海南島方面に移動していると確認した。 中国国営新華社通信は、掘削施設が今後、海南陵水計画と呼ばれる作業に使われる予定と伝えた。陵水は海南島の沿岸部に位置する場所とみられ、他の国が領有権を主張する場所ではない可能性が高い。 中国側は当初、パラセルでの掘削活動を8月中旬まで継続する意向を示していた。中国の国際問題専門家によれば、米上院本会議が10日、東シナ海と南シナ海における中国拡張主義を非難する決議を採択したことを受け、米国との本格的な対立を避けたい中国が態度を軟化させ、作業終了を前倒しした可能性がある。 中国側は5月2日、中越がともに自国の排他的経済水域(EEZ)だと主張している海域で一方的に掘削作業を開始。ベトナム側も公船を派遣し、中国船と衝突を繰り返していた。 中国政府は16日、5月に南シナ海の西沙(パラセル)諸島の周辺海域で設置を強行した石油掘削装置(リグ)による資源探査活動を15日までに終えたと明らかにした。猛反発していたベトナムとの緊張関係はいったん緩和する見通しだが、中国は南シナ海のほぼ全域の主権を主張する強硬姿勢を崩したわけではない。 中国側はすでに掘削装置を撤収し、ベトナムが主張する排他的経済水域(EEZ)の外に移したようだ。掘削作業にあたった中国石油天然気集団(CNPC)は、中国領海内の海南省沖に向けて移動中とした。 中国当局は15日、拘束していた13人のベトナム人漁民も解放した。6月下旬と7月初旬にベトナム近海で操業中だった漁船2隻を拿捕(だほ)し、乗員を拘束していた。 一方で、中国外務省は16日に発表した談話で「西沙諸島は中国の争う余地のない固有の領土だ」と主張。「ベトナム側が中国企業の活動を道理なく妨害したことに断固反対する」とし、周辺海域でのベトナム船による抗議活動を批判した。 中国側は当初、掘削装置による作業は8月半ばまで続くとしていた。ただ8月10日にはミャンマーで、南シナ海問題などを議題とする東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)が開かれる。中国が同問題を巡って批判の集中砲火を避けるため、掘削作業終了をARF開催前に早め、摩擦の緩和を狙ったとの見方が有力だ。 結局、中国はベトナムがEEZと主張する海域で、ベトナムから反発を受けながら掘削作業を最後までやりきった。今後もこうした実績を積み上げ、南シナ海の主権を巡る主張の既成事実化を強めていく考えだ。 これに対し、ベトナム側も警戒感を緩めていない。グエン・タン・ズン首相は16日、「主権を守るため常に断固として闘う。中国には二度と違法な掘削作業をしないよう求める」とけん制した。 ベトナム公安省戦略研究所のレ・バン・クオン元所長は「中国が逃げたと考えるべきではない。また複数の掘削装置をベトナムの水域に持ち込み、今度は外国企業と石油試掘を始めるかもしれない」と警戒感を解かないよう呼びかけた。 ただ、ベトナム政府にとって、この約2カ月半は我慢の連続だった。圧倒的な軍事力の差を持つ中国を相手にしつつ、自国民には領有権を守る強い姿勢を見せる必要があったからだ。 30回以上にわたる中国との交渉でも打開策を見いだせず、紛争海域への船舶の展開費用もかさんでいた。ズン首相は16日「ベトナムは中国と平和的に交渉し、紛争を解決する用意がある」とも発言しており、中国が想定より早く掘削装置を撤収させたことを安堵する雰囲気すらにじむ。 [南シナ海の石油掘削作業を巡る中越の動き] 中国がパラセル(中国名・西沙)諸島での石油掘削施設を予定より約1カ月も前倒しして撤収した。中国当局は「目的は予定通り円滑に達成され、石油とガスが発見された」と説明したが、見つかった埋蔵資源の量や質などについて言及がなかったことや、米上院が「中国非難決議」を可決した5日後というタイミングから、中国は国際社会からの圧力で施設の撤収を強いられたことを強く印象づける形となった。 中国がパラセルで掘削施設を設置したのは5月2日。直前の4月末にはオバマ米大統領がアジアを歴訪し、中国の対外拡張路線を牽制するため、日本とフィリピンとの軍事的連携の強化を確認していた。 米国との本格的な対立を避けたい中国は、日本とフィリピンに手を出しにくくなったため、あえてベトナムと対決を演じることで、国内に向けて「毅然とした対外姿勢」をアピールする狙いがあったとみられる。同時に、米国や東南アジア諸国の反応を試したい思惑もあったと指摘される。 しかし、中国はこの挑発行為で大きな代償を払った。ベトナム各地で反中デモが発生し、中国系工場が放火されるなどして流血の事態にもなった。ベトナムは国際世論の支持を取り付け、東南アジア諸国は対中不信を高めた。さらに、これまで中越の対立に中立的な態度を取ってきた米国がベトナム支持を明確化したことも、中国にとって大きな誤算だったといえる。 実は、習近平政権になってから、中国は外交で同じようなことを何度も繰り返してきた。尖閣諸島(沖縄県石垣市)への日米安保の適用について、米大統領は長年曖昧な態度を取ってきたが、習政権の強硬な対日姿勢を受け、態度を明確化することになった。 中国の「暴走」ともいえる対外強硬姿勢の背景には、経済低迷や環境悪化などへの国民の不満を外に向けさせたい思惑があると指摘される。北京の国際問題専門家は「今回は国際社会の圧力で一時引いたが、習政権は同じ政治手法をとり続ける限り、すぐに別の周辺国とトラブルを起こすだろう」と話している。 |