中国が、戦時中に日本兵が行ったと主張し非難する様々な残虐行為。中国人社会では歴史を通じて日常的に行われ、そして日本では行われてこなかったものが多い。
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《「1、2歳の手足切断し、物乞いとして利用」…社会主義国・中国で産業化する「物乞い管理」、闇組織の非道》
2015.01.08 産経新聞
中国が掲げる社会主義に照らせば、いるはずのない物ごい。しかし中国の主要都市には、肢体に障害を抱えている物ごいの人たちの姿が目に付く。物ごいを管理、搾取している闇組織の存在も浮上し、「より多くの喜捨を集めるために幼児の手足を切り落とした」との証言も飛び出した。社会主義を標榜する中国で、物ごいの存在はゆがんだ世相を反映しているようだ。(西見由章)
■ 失踪から10年後、悲惨な姿に
次々と暴露されるニセの物ごいよりもさらに深刻な問題が、物ごいの人たちを管理し、集めた喜捨を吸い上げている「丐幇(かいほう)」と呼ばれる闇組織の存在だ。2014年3月、香港フェニックステレビが広東省東莞市で暗躍する丐幇の実態を特集し、大きな反響を呼んだ。
“物ごい搾取組織”の存在が表面化するきっかけとなったのは、2010年9月の出来事。中国南西部の広西チワン族自治区から東莞に出稼ぎに来ていた女性が仕事を終えて繁華街をぶらついていたところ、突然、彼女の幼名を呼ぶ声が聞こえた。そばにいたのは、髪とひげが伸び放題で、両足の膝下と右手の肩から先がほぼすべて欠損し、座り込んでいた物ごい。なんと彼は10年前、二十歳そこそこで失踪したいとこの男性だった。
出稼ぎのため東莞で親類と暮らしていた廬剣秋さんは2000年、恋人に会うため外出したまま10年間行方不明となっていた。家族や親類はすでに死んだと思い込んでいたという。
変わり果てたいとこをみてショックを受ける女性。「どうしてこんな姿に」。剣秋さんによると失踪当日、バスから降りて間もなく「だれかとぶつかって意識を失った」。目覚めると、すでに両足と右腕を失っており激痛が襲った。暗い部屋の中に1年ほど閉じ込められ、その後、街頭で物ごいを強要されるようになったのだという。
剣秋さんが語った物ごいとしての日々は凄惨だ。鶏肉を食べることができる正月を除くと、食事はまんじゅうとマントーだけ。毎日“仕事”があり、ノルマが達成できなければボスの手下に殴られ、食事も与えられなかった。
剣秋さんが女性に窮状を訴えている最中、その近くでは中型バスから障害のある物ごいの人たちを次々と路上におろしていく男2人がいた。男らは剣秋さんと女性が話し込んでいるのに気づき、飛んできて剣秋さんを蹴りつけた。女性には「余計なことに首を突っ込むな。殺してやるから待ってろ」と捨てゼリフを残し、剣秋さんをバスに乗せて連れ去ったという。
■ 「警察は信用していない」
女性から連絡を受けて、広西にある剣秋さんの実家は大騒ぎになった。一家総出で東莞に向かい、10年ぶりに姿をみせた剣秋さんを探し回ったが、再び発見することはできなかった。
剣秋さんの実兄は、番組の中でこう語っている。
記者「なぜ警察に通報しなかったのか」
実兄「剣秋が失踪したばかりのころ、警察に通報したが、なんの反応もなかった。正直いって、私は警察をあまり信用していないんだ」
親類や友人たちが剣秋さんを探して街頭にいる物ごいを観察し続けた結果、その背後にいる管理組織の実態が浮かび上がってきた。
親類たちの証言によると、闇組織は毎日早朝、中型バスに物ごいの人たちを満載して、それぞれ道路上や市場などに配置。イベントや催しがあるときには大量の人員を投入し、深夜まで働かせるのだという。物ごいの近くには彼らを監視し、集金や食事の支給を担当する者たちがおり、一様に体格がよく、高級車に乗っていた。
物ごいの人たちを運ぶバスの窓には黒フィルムが貼られ、中の様子をうかがうことはできない。仕事を終えるとバスに乗せられ、建設現場近くの人気のない道路に停まって夜を越し、翌朝、再び仕事へと向かうのだった。
■ 悲惨なほど稼ぎは多い
番組では、物ごいを管理する闇組織の実態について証言する老人も登場した。王秀勇さんは両手に障害があり、かつて東莞の街頭で足をつかって絵を描く芸などを披露し、生計を立てていた。物ごいを管理する闇組織にも関わったことがあるという。
その証言は、全国の中国人を戦慄させた。
王さんによると、多くの組織は障害者や子供を物ごいに従事させており、ボスは地方の農民だという。数人の同郷人を手下として使い、1つの組織で十数人の物ごいを管理している。
王さんが関係した組織は当初、彼らの故郷で生まれた障害者の子供を物ごいとして利用していた。売られてきた子供もいれば、だまされたり、拉致されたりした子供もいた。
「世界の工場」とも呼ばれ出稼ぎ者が多い東莞では、赤ん坊が捨てられるケースが後を絶たない。闇組織はこうした子供を集めては、生後3カ月ごろから毛布にくるんで路上に置き、物ごいとして利用していた。
「彼らは利益のために、1歳、2歳の子供の足を切り落とすんだ」(王さん)
幼児の手足の切断された部分が腐敗して膿が流れ出し、外見が悲惨なほど、より多くの喜捨を集めることができたという。
こうした物ごいをさせられている子供たちが5、6歳になると、闇組織は彼らが逃げ出したり、金を隠したり、警察に通報することを恐れるようになる。体罰は日常茶飯事で、強力な睡眠薬を使って路上で眠らせ、“仕事”をさせることもあった。
「こうした子供たちは寿命が短く、衰弱すると、組織は緑地帯などに捨ててしまうんだ」と王さんは証言した。
東莞市の人口は約830万人とされ、大阪府とほぼ同じ人口規模だが、同番組によると、約3千人の物ごいが存在するという。
■ 搾取の長い歴史
幼児の手足を切り落とし、物ごいとして利用する-。人間性のかけらもない行為に対して、中国のネットユーザーからは怒りの声が噴き出した。
「最も腹が立つのは、犯罪を知りながらそれを止めようとしない『公僕』どもだ。お前らは闇組織よりもっと悪質だ」。
「警察とやくざの結託は東莞に限ったことじゃない」
共産主義や社会主義を掲げる中国において、こうした「搾取の極み」ともいえる行為がはびこっているのはなぜか。
実は中国において、物ごいを搾取する闇組織「丐幇」の歴史は長い。「中国乞食史」(曲彦斌著、九州出版社)によると、宋代以降の民間伝承や語り物を明代にまとめた「古今小説」の中に、丐幇をテーマにした小説が登場する。当時、闇組織のトップは世襲で、物ごいの上前をはねたり、高利貸をしたりして、かなり裕福な生活をしていたという。
また同書によると、物ごいを管理する組織のボスは黒社会の構成員や地域のごろつきが多かった。1930年代に上海の物ごいを調査した文献によれば、清代以降、物ごいの管理組織は県知事の「お墨付き」を得て絶大な権力を持っていた。
“新人”の物ごいは、その地域を管理するボスへの届け出が義務付けられ、稼ぎの一部などを納めなければならなかった。こうした闇組織の権威は、辛亥革命で清朝が倒れた後も続いていたとされる。
現代における丐幇の跋扈は、中国社会におけるセーフティーネットの機能不全をも意味している。
中国のネットユーザーはこう書き込んだ。「(中国が掲げる)社会主義と現代の時代背景に照らせば、中国に物ごいがいるのはおかしいではないか」
写真:街頭で物ごいをする障害者の男性(中国メディアのサイトから)。中国では物ごいの人たちを管理する闇組織の存在も浮上している
http://www.sankei.com/premium/news/150108/prm1501080002-n1.html