《親中派メディアの無知露わ「AIIB報道」 融資どころではない中国事情》 2015.03.29 産経新聞 英国に続き、ドイツ、フランス、イタリアも、中国主導で設立準備中のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加を表明したことから、メディアは「流れが変わった以上、現実的な目線で中国の構想と向き合うべきではないか。AIIBの否定や対立ではなく、むしろ積極的に関与し、関係国の立場から建設的に注文を出していく道があるはずだ」(日本経済新聞3月20日付朝刊社説)と言い出す始末だ。日経に限らずテレビ局を含め「親中派」メディアの無知さ、甘さには驚かされる。(夕刊フジ) 参加すれば、「日本はAIIBに注文を出せる」のだろうか。中国はAIIBに50%を出資し、本部を北京に置き、総裁も元政府高官。マイナーな出資比率で発言するなら、理事会の場しかないはずだが、中国側の説明では理事会はほとんど開かず、総裁の専決で諸事を決めていく。総裁は重要事項については共産党中央委員会にうかがいを立てる。突き詰めると同委員会総書記の習近平国家主席が最終決定権限を持つ。つまり、AIIBとは中国政府の各部局と同じように、党の指令下にある。そのAIIBに日本代表が物申す、と言って通るはずはなく、北京では物笑いの種にされるだろう。 日経は盛んに、AIIBに参加しないと、アジアのインフラ建設プロジェクトで「日本企業は不利な扱いを受けるのではないか」と論じる。AIIBは世界一の外貨準備を持つ中国の信用力と国際金融センターロンドンの英国の参加で、有利な条件で資金調達できる、従って年間90兆~100兆円のアジアインフラ建設需要が本物になるという、思い込みによる。これも、中国の金融に無知なゆえの誤解である。 中国の外貨準備は2014年末で3兆8430億ドル(約461兆円)に上るが、同年6月に比べて1500億ドル(約18兆円)も減った。不動産市況や景気減速を背景に資本逃避に加速がかかっているためだ。外準を対外融資に役立てるどころか、中国当局は対外借り入れを増やして外準のこれ以上の縮小に歯止めをかけようと躍起となっている。 しかも、外準をおいそれと対外融資の財源に使えるはずはない。中国の金融制度は、中国人民銀行が流入する外貨に見合う人民元資金を発行する。外貨を取り崩そうとすれば人民元資金供給を減らさざるをえなくなる。すると国内経済にデフレ圧力がかかる。外準は見せ金にしか過ぎないのだ。 中国は14年9月末で1・8兆ドルの対外純債権を持ち、日本に次ぐが、外準を除くと、負債が資産を2・4兆ドルも上回る。実質的な中身からすれば、中国は債務大国であり、債権大国の日独とは大きく違う。 ロンドンなど国際金融市場にとって、中国は最大の融資先になっている。英国はお得意さんである中国のAIIB参加要請に応えたのだろうが、国際金融界はリスクに応じて高い金利を要求するだろう。巨額のインフラ・プロジェクト融資が北京主導でできるはずはない。 (産経新聞特別記者・田村秀男) http://www.sankei.com/premium/news/150329/prm1503290015-n1.html |