北の姿勢転換は日米の強硬な圧力の成果

米朝首脳会談が5月までに開催される可能性が出てきた事について、北朝鮮とその追従者達が「安倍総理は梯子を外された」等とプロパガンダを強めているが、全く見当違いも甚だしい。

これまで全て失敗し北朝鮮の思いのままとなってきた核・ミサイル交渉と異なり、今回は、トランプ米大統領と安倍総理の緊密な連携による北朝鮮への強力な圧力がほころばなかったからこそ、北の独裁者はリアルな破滅の恐怖を感じ、交渉の道を探り始めたのだという事は明確だ。

その際に、「盾」の日本と「矛」の米国で、「矛」の米国が交渉のイニシャチブを取る事は当然であり、今の段階でトランプ氏が安倍総理を「出し抜いた」などと言うのは軽率でしかない。

引き続き、日米の連携は揺るがない、と平然としている事が、今の日本が採るべき態度だ。

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《【久保田るり子の朝鮮半島ウオッチ】米朝急展開なぜ? 「斬首」への恐怖が金正恩氏を駆り立てる》
2018.03.11 産経新聞

北朝鮮は建国70年で独裁3代目の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がトランプ米大統領に会談を呼びかけた。なぜ、いまなのか? その動機は恐怖とみられている。金正恩氏は居場所を変えて暗殺を恐れているという。一方で、米朝会談の焦点は、米国の「北朝鮮の核廃棄」要求と、北朝鮮の「朝鮮半島の非核化」主張の対立だ。北朝鮮は米韓同盟で韓国にかかっている米国の「核の傘」(拡大抑止)も含む非核化、つまり在韓米軍撤退を要求する見込みだ。人道問題を重視するトランプ大統領は日本人拉致問題も取り上げるとみられ注目される。

■ まただまされる?

米朝関係は核問題で「緊張」と「対話」を繰り返してきた。1993年~94年の第1次核危機も、2002年秋の第2次核危機も、緊張が最高潮のときに局面が転換しており、情勢が急展開するのは今回で3度目だ。ただ今回は、過去の教訓から「また北朝鮮にだまされるのでは」との警戒感が強い。

今回の急展開は北朝鮮が仕掛けてきた。金正恩氏の1月1日の「新年の辞」が契機だが、これほど急ぐ理由は何なのか。(1)国際包囲網の制裁による困窮(2)核ミサイルの完成(3)米軍事オプションへの危機感-などが挙げられているが、決め手は最高指導者、金正恩氏の恐怖とみられる。

米韓軍は2年前から首脳部を攻撃する「斬首作戦」の訓練を本格化した。金正恩氏はこれに敏感に反応し、以来、地上や地下居所を日替わりで転々としてきたとされる。北朝鮮のサイバー部隊は2016年秋、韓国国防省のサイトにハッキングし、「斬首作戦」の具体的な情報を入手した。

一方の米側は北朝鮮の核ミサイル脅威の高まりに軍事作戦を検討、昨年は韓国東海岸で「斬首作戦」の一部であるミサイル発射合同訓練を北朝鮮に見せつけるように実施した。このときは斬首作戦に使う長距離空対地ミサイル「タウルス」の動画も公開し、仮想の北朝鮮人民武力部を撃破する刺激的な映像まで流して北朝鮮を牽制した。

米軍は岩盤の多い北朝鮮の地形に合わせ、通常型地中貫通爆弾(バンカーバスター)だけでなく小さな核爆弾(ミニ・ニューク)も投入するほか、「金正恩氏の居場所は日々把握している」との情報を北朝鮮側に流す心理戦も仕掛けてきた。こうしたなかで、金正恩氏の恐怖は昨年来、急激に高まっていたとの情報が複数ある。

■ 金正恩氏の「最大の盾」は文在寅政権

今回の局面転換で金正恩氏のメッセージはすべて韓国政府が伝えた。金正恩氏を擁護、称賛しているのは韓国大統領府である。

米国はこうした「韓国式外交」に不満を募らせ、韓国の説明する北朝鮮情勢に信頼を置いていない。その上、文在寅(ムン・ジェイン)政権は「韓国は米朝対話の仲介役を務める」としており、核問題に対する当事者意識が極めて低い。文政権内には「米国も(北朝鮮との)対話のハードルを下げる必要がある」と発言する幹部がいるほどだ。

文大統領は2月の平昌五輪閉会式に訪韓した北朝鮮の金英哲(ヨンチョル)・党副委員長と会談したが、北朝鮮側が米朝協議の条件として出した2条件を公表しなかった。その条件とは「核保有国の地位で対話する」「米韓合同軍事演習が行われたら対話は受け入れない」との主張。大統領府が条件を明らかにしたのは金英哲氏の帰国後で、しかも与党幹部への報告としてだった。南北融和を最優先する文政権はいまや金正恩氏の保護者的ともいえる役割を果たしている。

■ 南北首脳会談は「バラ色」?

米朝と南北の首脳会談のいずれが先行するかはまだ不明だが、米朝による非核化の協議が確実になったことで、南北首脳会談は「バラ色」になる可能性が高くなった。

韓国政府は早くも、「首脳会談後には南北離散家族の再会に向けた赤十字会談を開く」「南北軍事当局者会談など分野別の会談を進める」などと文大統領自身が与野党代表に伝えている。また金大中(キム・デジュン)元大統領と金正日(キム・ジョンイル)総書記の南北共同宣言(2000年)を記念した南北行事などが取り沙汰されるなど、もはや「南北融和時代」に先走っている。

韓国のこうした態度を懸念する米国は、駐韓米国代理大使が韓国メディアを集めて「米韓合同軍事演習の再延期はない」とクギを刺すなど異例の措置を取っているが、北朝鮮は文政権の対北姿勢を最大限に利用しようとしている。

韓国も北朝鮮も指導者が異様なほど機嫌がいい。金正恩、文在寅両氏は連日、満面の笑みである。構図としては日米VS南北となってきた。

米ワシントンは「歓迎」と「警戒感」を同時にみせている。トランプ大統領も「非常に肯定的」としながらも「無駄な希望になるかもしれない」とツイートした。

ワシントンの強硬派は「北朝鮮は信じられない」といい、対話派は「この機会を逃してはならない」と主張する。日本には拉致問題解決への「期待」がある一方で、懐疑的な見方や警戒感も根強い。制裁強化を含め日米の連携が重要な局面に入った。(編集委員)

http://www.sankei.com/world/news/180311/wor1803110003-n1.html