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「ベビーブーム」のサハリン州。
「子供1人につき、月額2551ルーブル(約5000円)給付」「3人目以上の子供がいる家庭の住宅取得に200万ルーブルまで支援」。
充実すべき育児支援。給付月額は我が国の約2万円に相当。樺太は取り戻す。

《サハリンはなぜ今「ベビーブーム」なのか?》
2017.09.21 Forbes 中村正人

(写真:サハリンでは、どの町も屋外で遊ぶ子供たちが多かった。コルサコフの稚内行きフェリーの見える展望台にて。)

今年6月、サハリン東海岸の港町ホルムスクにある旧真岡王子製紙工場跡に潜入し、撮影していたときのこと。ふたりのロシア人少年がいきなり廃墟の中に現れた。

見慣れぬ外国人がいるのを見て、近づいてきたようだ。彼らにとって、そこは小さな頃から勝手知ったる遊び場らしい。まるで「こっちも面白いよ」とでもいうように手招きし、道先案内人となって奥まで連れていってくれたのだった。

(写真:中学生のニコライくんと2歳年下のイーゴリくんは、この工場廃墟の周辺に建つ団地の住人だ。)

サハリン南部(樺太)が日本領だった頃、王子製紙はいくつもの工場を建設した。日本時代は真岡と呼ばれていたこの町では、大正8年(1919年)に操業を開始。戦後もしばらく稼動していたが、ソ連崩壊後の1990年代半ばに停止している。

ホルムスクは現在、人口2万8000人ほどの小さな町だが、子供たちが外で元気に遊んでいる姿をよく見かけた。サハリン州では5月が卒業シーズンで、6~7月は夏休み。そのせいもあったろう。だが、街角で遊ぶ子供の無邪気な姿に癒されるといった体験は、かつてはアジアの発展途上国の話だった。ところが、最近は経済成長によってアジアの都市にはビルばかりが建ち、子供が安心して遊べる場所は激減。戸内に閉じこもる子供たちが増えている。それだけにサハリンで見た光景は新鮮だった。

サハリンの子供たちの元気な姿を見ていると、いくつかのことに気づく。ロシアの1人当たりの名目GDPは世界70位の8928ドル(2016年)。日本の4分の1にすぎず、決して裕福な国とはいえないが、彼らの着ているものは貧しさを感じさせることはない。

面白いのは、男の子は地味なウインドブレーカー姿でも、女の子はフリルの付いたミニスカートや水玉柄など、おしゃれさんが多いこと。これは万国共通なのかもしれないが、安価な中国衣料が世界中に大量に出回った影響は、極東の果ての小さな田舎町にも見られる。

(写真:ホルムスクの海浜公園で出会ったふたりの少女はお揃いの猫耳カチューシャを着けていた。)

さらに目についたのは、小さな町ほど自転車に乗る子を多く見かけたことだ。

冬季は長く氷雪で閉ざされる厳寒の地、サハリンだけに、6月の好天に恵まれた日には、小さな子供まで自転車に乗りたくなるのは当然だろう。町の自転車ショップには色とりどりの新車が並んでいた。これも、中国のシェアサイクルの推進で大量生産した安価な自転車が周辺国に流れているからに違いない。

ベビーカーを押す母親の姿もよく見かけた。これはサハリンに住む韓国系や非ロシア系の先住民族の人たちも同様だった。

(写真:ローラースケートを履いた女の子は、ベビーカーの中にいる弟を見守っている。サハリン鉄道最北駅のあるノグリキの公園にて。)

「サハリンには子供が多い」という見聞は、今年7月の「ビザなし交流」で北方四島を訪ねた朝日新聞の記者も指摘している。

「国後島の人口は約8千人で、四島の中で最も多い。7日、市街地の古釜布(ふるかまっぷ)では、ベビーカーを押したり子どもの手を引いたりして歩く母親の姿が目立った。『過疎化、高齢化』というイメージとは違い、インフラ整備が進む島はいま『ベビーブーム』だという」(「北方領土、活性化へ期待感 ビザなし交流」朝日新聞2017年7月14日)

サハリンは本当に「ベビーブーム」なのか? では、どうしてそうなったのか?

現地在住の日本人関係者によると「サハリン州の最大の悩みは人口減。少子高齢化もあるが、人口流出も問題」という。「ソ連時代、ロシア各地から集められた人たちとその後裔が多く住む地域だった。そのため、ソ連崩壊後の1990年代から2000年代の初め、自身やその一族の住む地域へ移住する人たちは多かった」。

現在のサハリン州の人口は約48万人。1990年代は約60万人だったことからすれば、すでに相当減っているが、統計によると、2016年から17年にかけてわずかに増えている。郊外でマンション建設も見られる州都ユジノサハリンスクや稚内と航路で結ばれたコルサコフなどの南部都市が増加しているからだ。

前述の関係者によると「サハリン州では子育て支援に力を入れている」という。サハリン州政府のエレーナ・カシャノワ社会保障担当大臣は「子ども1人につき、月額2551ルーブル(約5000円)給付」「3人目以上の子どもがいる家庭で住宅を取得する場合、取得価格の半額以内で200万ルーブルを超えない範囲の支援を約束」と地元メディアに答えている。

その成果が目に見える例として、サハリンではどんな小さな町でも、集合住宅の間の広場や公園に真新しい遊具ができている。町の老朽化した建築物や交通インフラに比べると、そこだけ輝いて見えるほどだ。

(写真:ホルムスクの郷土博物館の前に新しくできたミニ遊園地。子供の写真を撮る父親という光景もよく見られる。)

どの町にもある博物館を訪ねると、地元の子供たちが社会学習に来ている姿を見かける。この島の子供たちはのびのびしているが、教育から縁遠い存在ではなさそうだ。

(写真:この島に生息する動物に関する先生の解説に口を開けて感嘆する少年も。ユジノサハリンスクにあるサハリン州立郷土博物館にて。)

なぜサハリンでこのような州独自の取り組みが可能なのか。「サハリンには豊富な天然資源があるため、ロシア国内で唯一の無借金州だから」と別の関係者はいう。

人口減はサハリンに限らず、ロシア全土に共通する問題だ。財源ありきという話だとすれば、身も蓋もないけれど、ウラジオストクにならえば「日本にいちばん近いヨーロッパの田舎町」であるサハリン州が子供を育てやすい環境を作ろうとしていることだけは確かなようである。

https://forbesjapan.com/articles/detail/17780

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