「組織力を誇る新聞やテレビが、なぜこうまで週刊誌の後塵を拝するのか」。かつてのイメージと異なる現状、勉強になりました。
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《新聞・テレビが逆立ちしても「週刊文春」に勝てないカンタンな理由 舛添騒動から考えなければいけないこと》
2016.06.17 現代ビジネス 長谷川幸洋「ニュースの深層」
■ 新聞記者は何をやっているのか
政治資金や公用車をめぐる一連のスキャンダルの責任をとって、舛添要一東京都知事が辞職する。新聞やテレビが連日、大報道を続けてきたので読者は食傷気味と思うが、本筋以外の部分で3点ほど指摘しておきたい。騒動は落着しても、問題は終わらない。
1点目は新聞やテレビの報道ぶりである。今回の舛添事件は『週刊文春』が火を点けた。
連休中の4月27日に発売された号で湯河原の別荘通いを報じたのを皮切りに、6月9日発売号の「NHK交響楽団のコンサートや家族での巨人戦観戦も公用車を使っていた」との疑惑まで、6週連続で舛添問題を暴き続けた。まさに独走状態と言っていい。
この間、新聞やテレビは独自報道もあったが、基本的に文春の後追いが中心だった。新聞やテレビがどうにか面目を保ったのは、都議会が舛添問題を取り上げ始めてからだ。記者クラブにいる大手マスコミは議会が動き始めると取材がしやすいから俄然、有利になる。
文春はこのところ甘利明・前経済財政担当相の政治資金問題や宮崎謙介・元衆院議員の育休不倫など硬派記事でもスクープを連発している。タレントの不倫はともかく、政治スキャンダルでも堂々たる戦果だ。
読者は「組織力を誇る新聞やテレビが、なぜこうまで週刊誌の後塵を拝するのか」と思っているのではないか。左派リベラルのマスコミは口を開けば「権力の監視が任務」と大見得を切っているのに、文春ならずとも「ちゃんちゃらおかしい」と言わざるをえない。
なぜ新聞やテレビが負けるかといえば、大半の記者は記者クラブにべったりで、とてもじゃないが独自にスキャンダルを発掘するような余裕もなく、そんな取材体制にもなっていないからだ。
■ 経費でも他を圧倒する週刊文春
クラブ詰めの記者がやっているのは毎日の記者発表や事実上、談合の懇談取材をこなしているにすぎない。はっきり言えば、権力の監視ではなくクラブのソファで昼寝である。
昼寝といえば楽そうに聞こえるかもしれないが、実はそれくらい、記者たちは会見や懇談取材の「メモ上げ」で疲れ果てている。メモ上げというのは、記事にしようがしまいが、デスクや同僚記者たちに取材内容をメモにして流す作業だ。
メモ上げは政治取材ではもともと普通だったが、経済部や社会部でも日常作業化したのは、私の経験だと20年前くらいからではないか。「チーム取材」という建前の下、コンピュータで簡単に送れる便利さも手伝って広まった。
記者からすると、他の同僚がせっせとメモを出しているのに、自分が出さないと「あいつは手を抜いている」と思われかねない。それでなんでもかんでも、とりあえずメモを出しておく。こうして、特ダネ競争どころか「メモ出し競争」が記者の日常になってしまった。
その結果、記者会見は肝心の質問よりも相手の発言をひたすらキーボードに打ち込む記者ばかりという状態である。今回も、読者はテレビ画面で多くの記者たちが発言内容をキーボードに打ち込んでいる姿を見ただろう。
あれが一番重要な仕事なのだから、新聞が文春に勝てないのは当たり前である。
逆に週刊文春はどうかといえば、これまた私の経験で恐縮だが(私はかつて文春を含めて週刊誌でべったり仕事をしていたこともある)、まず取材費が潤沢である。当時30代後半だった、ある文春の契約記者は「給料が年間1000万円、プラス取材費が年間1000万円だから私は役所の事務次官並み」と自慢気に語っていたものだ。
かつて潤沢な給料と取材費といえばテレビ局というのが通り相場だったが、いまやテレビはどこも経費節減、人件費節減で見る影もない。飲み代どころか、夜のタクシー代さえままならないのがテレビ局である。
あるキー局のデスクは「うちは許される飲み代経費が1人5000円ちょっと。昔は常套手段だった人数ごまかしも一部の個人負担も、いまはまったくできません」と嘆いていた。これに比べれば、文春は圧倒的に自由かつ潤沢である(はずだ)。
「証拠はあるのか」と言われそうだが、ある。私は文春記者と飲むときは一切、払わない(ごちそうさまです。笑)。これは他の週刊誌でもそうだ。逆にテレビ局の人と飲むときは、相手はカネがないので、私が払わざるを得なくなる。これが実態なのだ。
昼はクラブ取材に追われ、夜は飲み代もタクシー代も出ないとなったら、スキャンダルを追って独自取材などできるわけがない。
新聞やテレビのキャスターや幹部が「権力の監視が仕事」などと大ぼらを吹くヒマがあったら、現場の取材記者たちの領収書をバンバン認めてやったらどうか。……と思わないではないが、そうしてみたところで、実は仲間同士の内輪飲みが増えるだけだろう。
なぜかといえば、彼らは終身雇用が保証されているからだ。そう頑張らなくても、身分は安泰なのだ。週刊文春は違う。文春に限らず週刊誌の現場で取材活動をしているのは契約記者たちである。彼らは成果を上げなければ、たちまち将来が危うくなる。
ダメな記者はだいたい40歳過ぎくらいでお払い箱になる。だから、それまでに名を上げて、たとえ契約が更新されなくても、食っていけるだけの実力と評判を勝ち取らなければならない。だから必死で仕事をするのだ。
新聞やテレビが本当にスクープ競争をするようになるためには、終身雇用ではなく契約記者制度にして、実力ある記者を高給で迎えるようにすべきだ。このあたりの話は、いま発売中の『新聞凋落! 10の理由』(別冊宝島)にも書いた。
■ 問題があるのは舛添氏だけではない
2点目。スキャンダルは実は舛添氏だけの話ではない。陰に隠れて見えにくくなっているが、周辺の官僚たちにもおおいに問題がある。
たとえば、舛添知事は昨年10月から11月にかけてロンドン・パリ5泊7日の海外視察旅行に出かけているが、都が公開した資料(http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/KAIGAI/SHOUSAI/DATA/151027.pdf)によれば、同行した職員は19人、かかった経費は5042万円だった。
豪華外遊自体も問題だが、その知事に総勢19人もの官僚がくっついて行く必要があったのか。知事のファーストクラス航空運賃ばかりが目立ったが、官僚のうち7人はビジネスクラスだった。宿泊はみんな高級ホテルである。
いまどき総理じゃあるまいし、たいした用事もないのに、大臣だって19人の同行といったら2の足を踏むだろう。ずばり言えば、都の官僚たちは知事の豪遊のお相伴にあずかったのだ。百歩譲っても、せいぜい3,4人もいれば十分だ。それが民間感覚である。
本来なら、彼らは知事に「ムダな経費を使うのはやめましょう。私たちは辞退します」と諫言しなければいけないはずだ。ところが、それも出来ないどころか、逆にホイホイとついて行ってしまう。そんな官僚はいらない。
知事辞職でリセットすべきなのは、知事だけではない。周辺の取り巻き官僚も顔を洗って出直すべきである。
■ 自民党には厳しい風
それから3点目。自民党はだらしなかった。「首相官邸が舛添氏に引導を渡すべきだ」というような話が広がったが本来、これは都の話なのだから、第一義的には自民党都連が判断すべき話だ。
ところが、都連の姿が見えるようになったのは、スキャンダルがいよいよ収まらず、舛添辞任以外に手がないのが誰の目にもあきらかになってからだった。水面下で何をしていたか知らないが、世論の風向きを読み違えたのは明白である。
最後の土壇場になって「共産党に不信任案を出されて賛成するのでは、いくらなんでもみっともない」から自分たちが出すということで辞任の流れが固まったが、有権者の気持ちが分かっていない。
こんな調子では、次の都知事候補がだれになっても、自民党が信頼を得るのはなかなか微妙ではないか。その影響は前哨戦である6月22日公示の参院選であきらかになるだろう。東京都選挙区の戦いは与党に厳しい。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48927
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