《【安保法制】一歩前進も、残った「できないこと」 立ちはだかる憲法9条の「壁」》 2015.03.21 産経新聞 自民、公明両党が20日、新たな安全保障法制の骨格に正式合意し、自衛隊は平和を守る活動と役割が格段に広がる。それでも、他国並みには「できないこと」がなお残った。自衛権発動以外の武力行使を禁じる憲法9条の制約が新たな安保法制でも作用していることが原因だ。 「与党協議の成果は、やっぱり憲法改正が必要だと明確になった点だ」 自民党側出席者の一人は与党協議をこう振り返る。政府内には「集団的自衛権が認められれば、憲法改正の必要性が低下する」(国家安全保障局幹部)との声もあったが、具体的な法整備が協議される中でこうした見方は少なくなった。 ■ 集団的自衛権 合意文書では集団的自衛権を行使するための武力攻撃事態法などを改正すると明記したが、憲法9条による特殊な「足かせ」で行動の自由を奪われている状況に変わりはない。 密接な関係にある他国が攻撃を受ければ集団的自衛権がすぐさま行使できるわけではなく、あくまで「日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合(存立危機事態)」に限られている。昨年7月の安保法制の閣議決定は、過去の9条解釈の上に立って組み立てられているからだ。 北大西洋条約機構(NATO)は2001年の米中枢同時テロで集団的自衛権を発動し、アフガニスタン戦争に参加した。日本は米中枢同時テロが存立危機事態に当たると認定されなければ、NATOのような行動は取りえない。安倍晋三首相は中東・ホルムズ海峡に機雷が敷設され石油供給が途絶える事態が存立危機事態に該当するとしているが、国際標準の集団的自衛権は封印されたままだ。 ◆武力行使一体化 安保法制では、日本や国際社会の平和のため活動する他国軍に後方支援を行う目的で、自衛隊の海外派遣を随時可能にする改正周辺事態法と新法を整備する。 ただ、自衛隊が武力行使できるのは自衛権が発動されたときだけだ。後方支援での武器使用は、他国軍の武力行使と一体化しない範囲でしか認められない。停戦合意前の機雷掃海は一体化しているとみなされる。 後方支援を行う活動地域が「現に戦闘が行われている現場」になれば、自衛隊は即座に撤退しなければならない。敵に攻撃されている友軍を見捨てることで違憲状態を回避するのだ。 自衛隊幹部は「他国からの信頼を損なうことにならないのか」と懸念する。 ■ 邦人救出 合意文書に盛られた在外邦人の救出も、厳しい条件が課されている。邦人が拘束されている地域に主権が及んでいる受け入れ国の同意が前提で、武器使用は正当防衛や緊急避難など警察権行使の範囲に限られる。 しかし、国際法では自衛権による邦人救出が可能だ。安倍首相は自衛隊の能力に疑問を呈する形で否定しているが、自衛権が発動できればイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」による邦人殺害脅迫事件でも邦人救出作戦を行える可能性があった。 これに対し、日本が自衛権を発動できるのは「組織的、計画的な武力の行使」があった場合のみだ。この見解は新たな憲法解釈にも引き継がれ、日本人が偶発的に拘束されても自衛権は発動できない。 (杉本康士) http://www.sankei.com/politics/news/150321/plt1503210007-n1.html |