2014/11/08 4:24

《日本ほめ「売国奴」呼ばわりで“抹殺”された漫画家 圧力恐れ中国帰れず》
2014.11.07 産経新聞

 中国の習近平政権が表現の自由への取り締まりを強める中、インターネットで風刺漫画が人気の中国人漫画家、王立銘さん(41)が来日中の8月、身の危険を感じて帰国を断念し、日本で新たな生活を始めた。事実上、政治的保護を求めた滞在で「しばらく日本から中国を伝え続けたい」と話している。(SANKEI EXPRESS)

■ 日本の良さ紹介で「売国奴」

 中国政治をテーマに「辣椒」(中国語でトウガラシ)のように刺激の強い皮肉や批判を込めた作品を2009年からネットで発表。ペンネーム「変態辣椒」(レベル・ペッパー)で知られ、短文投稿サイト「微博」などで約100万人のフォロワーを持つ。

 今年5月に初めての海外旅行で来日。日本人の礼儀正しさなど感じたことを漫画で紹介していたところ、中国共産党機関紙、人民日報系サイト「強国論壇」が8月18日、王さんを「親日、媚日、漢奸(売国奴)」と批判するコラムを掲載。コラムは数時間以内に中国国内の複数のサイトに転載された。

 微博などのアカウントが無効となり、王さんはネット空間から「抹殺」された上、「帰国すれば殺す」などと書かれたたくさんの脅迫メールが送り付けられた。

 王さんは「帰国すれば空港ですぐに拘束されるだろうと身の危険を感じた。一緒に来た妻の身も心配だった」と語る。

 専門家によると、13年3月発足の習政権はネット空間の言論を脅威に感じており、この年の夏には「社会主義制度」「国家利益」などへの批判を禁じる「7条の底線(ボトムライン)」とする規範を設定。社会問題を扱うブロガーのサイト閉鎖や拘束などを繰り返している。

■ 「文革時代に戻ったよう」

 王さんはこれまで共産党指導者や日中関係、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の領有権をめぐる日中対立、香港大規模デモなど、共産党にとって敏感なテーマを取り上げ、当局の警告は日常茶飯事。一時拘束されたり、自宅に深夜踏み込まれたりもした。

 強国論壇のコラムは「ネット世界は法外の地ではなく利用者も道徳、法律、国家利益などを定めた『7条の底線』を守らなければならない」と指摘、作品が一線を越えたと「断罪」した。

 王さんは「一方的な理由で表現の自由を奪い迫害するやり方は文化大革命時代(1966~76年)に戻ったようだ。初めての外国である日本で、自由の素晴らしさを知った」と指摘。「感じたままの日本を伝えることがなぜ売国奴なのか。政府や役人を笑い飛ばすことも許されない。中国の未来には悲観している」と話した。

 支援者の協力で、王さんは関東地方の大学に研究員として身を寄せることが認められた。日本語の勉強を始め、漫画を描くため画材を探し歩く日々だ。

 ■ 7条の底線(ボトムライン) 中国政府系機関「中国インターネット情報センター」が中心となって2013年夏、ネット空間の規範として発表。ネット利用者に(1)法律(2)社会主義制度(3)国家利益(4)公民権益(5)社会公共秩序(6)道徳(7)情報の真実性-を順守するよう要求した。中国のネット利用者は6億3200万人(14年6月時点)に上っており、習近平政権が政権批判などを封じ込めるため打ち出したインターネットの管理強化策の一環。(共同)
http://www.sankei.com/wor…/news/141107/wor1411070021-n1.html