人口減少と高齢化による空き家の増加が問題となっています。相続税が、節税対策としての賃貸物件建設を誘導し、空き家数の増加を助長するとなると、これは税制の歪みによる都市政策への悪影響、国内の資金配分の非効率であり、総合的な政策の調整が必要です。 — 《相続税節税で新築賃貸急増 都市部に余剰感も 空き家率過去最高》 2014.07.29 産経新聞 過去最高を更新した空き家率は、人口減少が進む日本が直面する構造問題の一つといえる。ただ、足元をみると、さらに空き家数の増加を助長しかねない事態も進む。来年1月の相続税課税強化を前に、個人の節税対策としてアパートなど賃貸物件の建設が急増しているのだ。今後、地方だけでなく都市部でも供給過剰が進み、入居者が集まらないことが懸念されている。(藤沢志穂子) ■ 広がる課税範囲 国土交通省によると、平成25年度の新設住宅着工戸数は前年度比10.6%増の約98万7千戸で、うち賃貸物件は15.3%増の約37万戸。持ち家などは消費税増税の駆け込み需要の反動による減少でマイナスが続くが、賃貸物件は5月まで15カ月連続のプラス。当面この基調が続くとみられる。 背景にあるのは相続税の節税対策だ。来年1月から基礎控除額が4割、引き下げられて課税範囲が広がる。死亡者のうち相続税の対象となるのは、現在の年間約5万人から1.5~2倍に増えるとみられている。ただ遺産が土地に建てられた賃貸住宅だと、入居者の借地権などが資産評価から差し引かれ、相続税の評価額が大きく下がる。賃貸物件の建設が都市部を中心に急増しているのはこのためだ。 住宅業者は相続税対策セミナーを相次いで開催。金融機関が賃貸物件の経営を資産運用の一環として顧客に勧めることも多く、積水ハウスでは紹介された顧客が2~6月で前年同期比10%増となった。みずほ総合研究所の推計では節税対策で、年間に約1千人が15室程度の平均的な賃貸物件を着工、年間で約1万5千戸の押し上げ効果がある。 ■ 金融機関に影響 だが人口減少もあって需要は減少傾向だ。昨年度の新設着工実績は約37万戸だが、みずほ総研の試算では潜在的な需要は約30万戸、26年度で約29万戸、27年度で28万戸にすぎない。 空室率は過疎化の進む地方だけでなく、都心でも新築物件の供給過多で増える傾向にある。入居者が集まらなければ建設資金を融資した金融機関の経営も揺らぎかねない。 日本賃貸住宅管理協会の担当者は「賃貸経営は立地条件を吟味するだけでなく、外国人や高齢者も積極的に受け入れるなどの工夫が必要」と節税対策のみに的を絞った賃貸物件の急増に警鐘を鳴らしている。 (関連) |