《死海、死の淵に 生活用水くみ上げで水位低下、20年余で消滅か》
ソ連の無謀な灌漑により失われたアラル海を想起します。アラル海は1960年代までは世界第4位の湖でしたが、半世紀で約20分の1に縮小し、消滅の恐れがあります。
死海の場合は、地中海や紅海の海水を引き入れる事は可能ですが、死海の成分を変えてしまう恐れがあります。
以下、記事。
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世界中から観光客が集まる中東の塩水湖、死海の水位が年々低下している。このままでは2050年までに完全に干上がってしまうとの指摘もあり、死海を消滅から救おうと、紅海から水を運び込む巨大プロジェクトも動き始めた。
エルサレムから東へ車で約1時間。ヨルダン渓谷にある死海の北端に位置するヨルダン川西岸地区のカリア湖水浴場は、海水よりも高い塩分濃度のために体が水面に浮くさまを楽しむ欧米などからの観光客らでにぎわっていた。彼らが不思議がったのが、水辺から何十メートルも離れた丘に柱の高さ5メートル以上の赤さびた桟橋が放置されていたことだ。
「昔は、桟橋の所まで湖水があった。水が減って陸地がどんどん広がり、湖までの距離も遠くなる一方だ」。近くの土産物店で働く地元男性が嘆いた。
イスラエル地質調査所によると、死海の水位はこの40年間、平均で1年に1メートルのペースで低下。2004年は海抜マイナス417メートルだったのが、14年には同428メートルとなっている。
最大の原因は、沿岸のイスラエルやヨルダンが1960年代以降、死海に通じるヨルダン川およびその支流から、飲料水や工業用水、農業用水として大量の水をくみ上げているためだ。
死海は、ヨルダン川などから流れ込む水と、砂漠性の気候のために大気中に蒸発する湖水が絶妙なバランスを保ち、水位を安定させてきた。それがヨルダン川などからの大量取水のせいで湖水は蒸発する一方となり、年間約7億立方メートルの水が消失しているという。
また、水位低下で地表に露出した、塩を多く含む沿岸部の地層が地下水に浸食され、地面が突然陥没する「シンクホール」と呼ばれる現象が湖近くのリゾート地で続発しており、このままでは観光産業も壊滅的打撃を受けかねない。
イスラエル地質調査所のナダブ・レンスキー水天然資源局長は「死海の深さは290メートルあり、ただちに水がなくなることはない」と語るが、ヨルダンの環境団体は、「沿岸国の水需要は増え続けており、2050年には湖が消える恐れがある」と警鐘を鳴らす。
事態を受け、イスラエルとヨルダン両政府、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治政府は昨年12月、死海から約200キロ離れた紅海沿岸から海水をくみ上げ、ヨルダン領内に敷設するパイプラインを通じて死海に流し込む、約5億ドル規模の建設プロジェクトの合意文書に署名した。
世界銀行が支援するこの計画は、「パレスチナ問題などで対立する3者の信頼醸成にも貢献する」(イスラエル政府関係者)との期待もある。だが、蒸発する湖水の量に見合う塩水の供給は困難とみられるほか、死海の成分を変えてしまうなど環境への影響も懸念され、抜本的な解決策は見つかっていないのが実情だ。