平成23(2011)年3月2日
財政委員会
〇吉田委員
よろしくお願いいたします。
私からは、公会計制度改革について伺います。
東京都が平成十八年度から全国に先駆けて導入した複式簿記・発生主義会計、これは、率直にいって石原都政の最大の業績の一つであると思います。
石原知事は、知事就任前から、単式簿記・現金主義の従来の官庁会計のシステムに問題があることを指摘し、一期目の選挙の公約の中にも、都のバランスシートをつくり、新しい発想で都の財政を立て直すということを掲げ、平成十一年に知事に就任すると、早速、貸借対照表を試作し、十三年には機能するバランスシートを公表、十四年に本格的な複式簿記・発生主義会計の導入を表明し、平成十八年度から全国に先駆けて複式簿記・発生主義会計を導入したわけであります。
ここで全国の取り組みを見ますと、総務省が同じ平成十八年の五月に、何だか帳じり合わせのような感が否めないわけですが、基準モデルと総務省方式改訂モデルという二つの公会計モデルを提示し、全国の自治体に対して財務諸表の作成を要請しているわけであります。
そこでまず、全国の自治体の直近の取り組み状況はどうなっているのか、具体的にお伺いします。
〇佐藤会計制度担当部長
平成二十一年度決算につきましては、全体の作成状況は明らかになってございませんが、総務省が行いました平成二十年度決算の財務諸表作成状況の調査によりますと、全国の都道府県及び区市町村千七百九十七団体のうち、九割以上であります千六百四十団体が何らかの財務諸表を作成してございます。
そのうち、約八割に当たります千三百二十八団体が総務省方式改訂モデル、約七%に当たります百十五団体が基準モデルで財務諸表を作成してございます。
なお、都道府県では、東京都と大阪府以外は総務省のモデルで財務諸表を作成してございます。
〇吉田委員
ありがとうございます。
都道府県と区市町村を合計すると、約八割が総務省方式改訂モデルで財務諸表を作成していると。
それもけげんな感じもするんですが、なぜ全国の自治体の多くが総務省方式改訂モデルによって財務諸表を作成したり、作成中であるのかでありますが、この都の新公会計制度−−総務省の提示している二つの会計モデル、それぞれ特徴があって、比較考量の結果、多くの自治体が総務省方式改訂モデルによって財務諸表を作成することを選んだのだと思います。
そこで、総務省のモデルと都の方式の違いについて、改めてお伺いいたします。
〇佐藤会計制度担当部長
まず、総務省方式改訂モデルは、官庁決算の組みかえ方式でありまして、本格的な複式簿記ではございません。
また、基準モデルや総務省方式改訂モデルは、例えば税収を行政コスト計算書に計上していないなど、国際公会計基準とも大きく異なる考え方をとってございます。
この国際公会計基準でございますけれども、これは世界約百二十カ国の会計士協会が加盟をしております国際会計士連盟の機関であります国際公会計基準審議会が策定したものでございまして、東京都会計基準はこの考え方を取り入れておりまして、税収についても行政コスト計算書に計上しております。
さらに、日本公認会計士協会が公表しております地方公共団体の会計に関する提言でも、総務省のモデルに対しては否定的な見解になってございます。
〇吉田委員
これまでもいろいろ質疑があったと思うんですが、改めてお聞きをしましても、多くの自治体が採用しているというこの総務省方式改訂モデルは、そもそも複式簿記でなくて、簡便に作成できることから、とりあえず作成していると。
財務諸表を作成しているという状況ではないと思います。
また、基準モデルの方は、国際公会計基準からかけ離れているとのご答弁であります。
いうまでもなく、民間の企業会計においても、国際会計基準、IFRSですね、これに合わせていくという国際的な流れになっておりまして、公会計につきましても、国際公会計基準、IPSAS、この考え方を取り入れた制度、これ、都も−−この新公会計制度は、総務省のモデルに比較してすぐれておりまして、全国の自治体のスタンダードとなるのにふさわしいものであります。
ぜひこの都の方式を全国に普及させていくべきであるわけですが、これまで都は、国や他の自治体に対してどのような働きかけを行ってきているのか、改めてお伺いいたします。
〇佐藤会計制度担当部長
ご指摘のとおり、総務省のモデルは、国際公会計基準とも異なり、全国標準的な会計基準にはなり得ないと認識しておりまして、国に対しては、長年にわたり、国際公会計基準を踏まえた会計基準の整備を要求してまいりました。
また、他の自治体に対しましては、平成十八年の制度導入以来、全国自治体の職員を対象としました説明会やフォーラムの開催を初め、個別の自治体への説明など、昨年度までに延べ千五百を超える自治体等に対しまして説明を実施してまいりました。
さらに、昨年は、新たに首長向けに「複式簿記の導入が必要です!」と題しましたパンフレットを作成いたしまして、これを活用して、五月の九都県市首脳会議、七月の全国知事会議や都内の市長会、八月の区長会で配布するなどの普及活動を実施しております。
〇吉田委員
ありがとうございます。
都のこの方式の普及に向けて、さまざまな働きかけを行っていることはわかりました。
これまで言及されませんでしたけれども、大阪府とも共同してシンポをやるなど、いろいろ取り組んでいただいていることは私も承知しております。
大阪府とも協力しつつ、積極的な働きかけを展開していただきたいと思います。
次に進む前に、この広報に関して、一つだけ申し述べたいと思います。
ただいまご答弁のあった、会計管理局で作成している「複式簿記の導入が必要です!」というパンフレットでございます。
わかりやすく、よくできていると思いますけれども、このパンフレットの表紙と中のページに、置いてきぼりの日本、世界の公会計の状況はと題して、複式簿記・発生主義会計を導入または導入予定の国別の状況を示した世界地図のページがあります。
この地図は、世界の多くの国が複式簿記を導入していることを示すわかりやすい地図なのですが、これ、南樺太の部分がロシアの領土であるように表示されています。
これはミスだと思いますが、南樺太は、中千島、北千島と同様、帰属未定の地域であり、これは日本政府の公式見解であります。
最近、北方領土についてもロシアの不愉快な行動が続いておりますが、こういう外交に直接かかわるような部分については、厳密に、正確に記載すべきであります。
今、印刷してあるパンフレットを廃棄して新しく刷り直せというようなことはいいませんけれども、次の版を作成する、あるいはさまざまな広報普及の材料をつくる際には必ず改めていただきたい、このように思いますが、いかがでしょうか。
〇佐藤会計制度担当部長
パンフレットの改定に向けましては、掲載する情報の精査など、適切に対応してまいりたいと考えております。
〇吉田委員
ありがとうございます。
よろしくお願いいたします。
それでは次に、国や他の自治体への働きかけのみならず、外部から、特に国際的にどのようにこの都の制度が認識、評価されているのかということも重要であります。
そこで、この都制度について、国際的にどのように認識されているのかお伺いいたします。
〇佐藤会計制度担当部長
都では、英語版の財務諸表を作成するなど、海外向けにも情報を発信してまいりました。
そして、都の制度を自国の制度の参考にするため、海外、特にアジア地域から、インドやインドネシア、スリランカ、タイ、マレーシア、ラオス、都市ではバンコクから、財務部門や会計検査部門の担当者の方が、JICAの研修制度などを活用して視察に訪れております。
また、昨年三月に行われましたOECDのシンポジウムにおきまして、国際公会計基準審議会の議長から、地方政府が独自に国際公会計基準を取り入れている例といたしまして、ドイツのヘッセン州やスイスのチューリヒ州などと並びまして東京都が紹介されております。
〇吉田委員
ありがとうございます。
東京都のこの公会計制度が海外からも関心を寄せられ、自国の制度の参考にするために、視察も受けているという状況がわかりました。
都の制度をスタンダードとして普及させていくためには、国や自治体に、直接、制度の優位性を説明していくことは当然でありますが、第三者である海外の機関、政府、専門家などからも、都の制度が総務省のモデルよりもすぐれた、国際公会計基準と整合性のあるものであることを認識、評価してもらうことが重要であります。
海外からの視察も、積極的に働きかけ、受け入れていくことはもちろん、先ほどご答弁いただいたような国際的なシンポジウムなどを初め、さまざまな場あるいは出版物で取り上げてもらう必要があります。
このためには、ただ待つのではなく、JICAやOECD、あるいは国際会計士連盟、IFACなど、内外の関係機関の動向を積極的に把握し、みずから働きかけていくことが重要だと考えます。
そこで、都の制度について、海外においても一層認識あるいは評価が深まるよう、広報を国際的に行っていくことも必要だと考えますが、見解を伺います。
〇佐藤会計制度担当部長
都は、新公会計制度につきまして、全国の自治体への普及に向けて積極的な広報活動に取り組みまして、国際的にも、これまで、英語版の財務諸表の公表や海外からの視察の受け入れを行ってまいりました。
副委員長ご指摘の点も含め、広報のあり方をより幅広い視点から検討し、今後とも引き続き、さまざまな機会をとらえて、都の制度の広報活動に取り組んでいきたいと考えております。
〇吉田委員
ありがとうございます。
一般論として、日本人は海外に向かってアピールすることが非常に苦手であります。
あるいは下手であります。
自分の側に正当性がある、あるいはすぐれている、あるいは公正である、こういうふうな場合でさえ、それを国際的に共有される認識にしていく、あるいはその認識に基づいて国際的な物事を決めていく、進めていく、こういうことがなかなか実現できておりません。
例えば、金融規制のBIS規制についても、あるいは二酸化炭素の排出削減についても、あるいはスポーツのレギュレーションにしても、他国に都合よくルールが変更される、あるいは決められてしまう。
これは、日本がアピール下手であることと、そして、何よりも国際的に働きかけていくことについて認識と行動が足りないこと、これが国際社会で主導権を握れない、そして、多くの得られてしかるべき利益を得ることができない−−これには他者の利益にも資する公益、こういう場合も多々あるわけですが、こういう大きな要因であります。
東京都では、都債の適切な発行による安定的な資金調達のために、投資家や格付機関への説明など、国内だけでなく、国際的なIR活動も行っています。
会計の分野についても、会計管理局がもっと国際的な働きかけを行っていただきたい。
我が国の公会計制度改革が、都のすぐれた制度が普及していくという望ましい形で進んでいくよう、国際的な評価と支持をてこにしていく、こういう着眼を持って国際的な広報活動を積極的に行い、公会計改革をリードしていただきたい。
このように意見を申し上げ、質問を終わります。