平成20(2008)年6月20日
環境・建設委員会
〇吉田委員
私からも、環境確保条例の改正についてお伺いをいたします。
代表質問、一般質問、そして本日こいそ委員から、この制度の根幹にかかわる大変重要な質疑を拝聴しておりまして、本当に大きな事業が始まるんだなというふうに思っております。
気候変動の危機回避に向けて、温室効果ガスの総量削減を早期に実現するため、削減義務制度と排出量取引制度の導入を初め、もろもろの制度の創設や対策の強化を行う今回の条例改正の内容は、国内においては初となる制度を構築しようという先駆的、かつ野心的なものでありながら、実にまじめに積み上げられたというか、地に足のついた制度設計になっているように思います。公会計制度の導入の際にも感じたんですが、非常に都庁の皆さんの能力というか、こういうものに敬意を表する次第であります。
しかし、まだ制度の詳細についてはこれから詰めていくところが多々あると思いますので、引き続きしっかりと有効に機能する制度につくり上げていただきたいと思うわけでありますが、本日は、その中でお答えいただける範囲で、いろいろとお教えをいただきたいと思います。
まず、削減義務制度の開始の後、新しく建設されたビルや新たに事業を始めた企業あるいは事業が拡大している企業など、新たに制度の対象となる事業所、こういうところは直ちに削減義務を負うとすると、基準排出量や削減義務量が確定できないように思われるわけでありますが、新規の対象事業所はどのような流れで削減の義務を受けるようになるのか、お伺いいたします。
〇大野都市地球環境部長
削減義務制度の対象は、年間で原油換算にいたしまして千五百キロリットル以上を消費する事業者を予定しております。現行制度と同じでございます。前年度に、前の年に千五百キロリットル以上という要求を満たせば、まず指定地球温暖化対策事業所として指定をいたします。この段階では、温暖化対策計画書の作成、提出の義務は課しますが、まだ削減義務は課さないという仕組みになっております。
その後、規則で定める数年間、連続してその基準を超えた場合に、特定地球温暖化対策事業所というふうになりまして、この段階で削減義務の対象となるという仕組みでございます。
この場合に、対象事業所の削減義務の基礎になる基準排出量は、指定地球温暖化対策事業所であった期間中における排出量の平均から算定することなどを想定しております。
〇吉田委員
急に削減義務を課すというのではなくて、新しいところでも、過去の実績というか、そういうものをきちんと把握してから考えるんだということはわかりました。
削減義務につきまして、削減余地と二〇二〇年までの目標という二つの視点から決めていくということでありますが、この削減義務が事業者にとって技術的に難しいものであってはならないわけでありますが、こういう見方について所見を伺います。
〇大野都市地球環境部長
オフィスビルなど業務系の施設を例にとりますと、ボイラーなどを最新の省エネ機器に更新することで、最大でビル全体の約一〇%程度のエネルギーを節減できるほか、例えば照明につきましても、インバーターの非常に性能のいい機器が出ております。こうしたものや、あるいは小まめな節電等によりまして、かなりの節減が可能と考えております。
二〇二〇年度までには対象事業所の多くがこうしたボイラーや照明の法定耐用年数を超えますので、現在の技術だけを前提にいたしましても、比較的大きな削減余地があるものと考えております。
〇吉田委員
技術的に企業として実現可能というか、対応可能な義務の内容になるということだと理解いたしました。
そして、この排出量や削減量の算定に関しましては、検証機関のあり方が大変重要だと思いますが、この問題については、この後、今村理事の質疑に譲ることといたしまして、削減義務を履行するには、排出量を買い取ることによっても可能となるわけでありますが、そもそもこの取引はいつから開始されることになるのか。また、実際に取引が活発になされるという状況になるのはいつごろからと想定しておられるか、伺います。
〇大野都市地球環境部長
都の今回提案させていただいている制度では、削減を検証された量を取引することにしておりまして、二〇一〇年度の制度開始から一年後、削減実績がわかる二〇一一年度からの取引が可能となるように設計をしております。条例上も、取引に必要な口座簿につきましての規定に関しましては、同年度から、二〇一一年度からの施行を予定しております。
現時点で取引の量でございますとか、活発な時期につきまして明確にすることは困難でございますけれども、一般的にいえば、削減義務の履行期間に近づくにつれまして取引が増加するものと想定できると考えております。具体的には、削減義務期間は五年間程度を想定しておりますので、この場合には導入後四年ないし五年目あたりから増加をしていくことが考えられると考えております。
〇吉田委員
わかりました。
それでは次に、排出量の取引価格と需給のあり方というか見通しというか、こういうものについて伺いたいと思います。
日本では、京都議定書上のCDMや環境省の自主取引しか例がございませんので、企業に義務を課している例で、EUを見ますと、一トン約四千三百円程度、六月十七日時点で二十六・七七ユーロと聞いております。既に省エネが進んでいる日本の場合、いろいろなコストを勘案して、もう少し高くなるかもしれません。
そして、例えば省エネをして削減量を売却しようと思った中小の事業者は、大体そのような価格を念頭に置いて削減に取り組むと思うわけでありますが、ここで、日本の企業というのは、大企業を含めて非常にまじめでありますので、仮にすべての大規模事業所がみずから削減を達成したという場合には、せっかく中小企業が頑張って削減をしても、買わなきゃいけない人がいないという状態が、これは杞憂かどうか。
仮にそのような状態が続けば、削減の努力をする中小事業者がいなくなってしまうおそれがあるわけでございますが、都はこのような懸念というか、このような状態について何か考えていらっしゃるか、伺います。
〇大野都市地球環境部長
本会議でもご答弁を申し上げましたけれども、中小企業の省エネ促進策といたしましては、中小企業の省エネ対策を適正に評価いたしまして、CO2の削減量が確実に買い取られる仕組みを考えることも有効と認識しております。こうした方法を含めまして、今後さまざまな省エネ支援策の具体化につきまして検討を進めてまいります。
〇吉田委員
ただいまご答弁ありましたが、それが、都が買い取りを行うことを念頭にというか、想定しているというのであれば、実はこれは慎重な検討も必要であろうと思うわけです。
というのは、都が買うということは、都民が税金で負担をするということでありまして、どのような価格でどこまでの量を買うのか。見方によっては市場に公的部門が介入したということになるとの考え方、あるいは事業者への一種の補助金となるんだという見方もあり得るわけであります。
この買い取りの価格の妥当性や公正性、それから取得する量の上限など、適切さ。それから、取得した削減量を行使するのかしないのか。行使する場合、その目的など、税金を負担する都民に説明責任を果たさなければいけないという部分がございますので、非常によく論理構成をというか、検討していただきたいと、これは要望申し上げます。
例えば、都だけでなくて、民間のNPO等が排出を行使しないけれどもボランタリーに買うとか、いろいろなことが考えられるかと思いますので、いろいろご検討いただきたいと思います。
そして、次に実際の取引についてでございますが、仲介業者としてだれが参加できるのかということが大変重要な問題だと思います。EU等では、銀行がいろいろ仲介したり、こういうことがあるようでございますが、今回の条例案では、取引に用いられる削減量口座簿の開設について、削減義務対象事業者以外の人は、規則で定める者に限り開設を受けることができるとなっております。この削減義務を負わないけれどもみずから排出の削減を行う中小事業者がこの対象になるんだろうと考えますが、排出事業者でない仲介業者もこの条項の対象になるのでありましょう。
私は、この新しく導入される都の制度での取引が、トラブルや混乱なく安定的に始められ、事例が重ねられ、制度が定着し、発展していくためには、口座開設の資格を、仲介を行おうとする者については、少なくとも制度の開始から一定期間は、信頼性のある者、例えば銀行業の免許を受けた者であるとか、金融商品取引法の定める金融商品取引の参加資格を有する者などに限るなどして、ある一定の制限をすべきだと考えるのでございますが、この点はいかがでしょうか。
〇大野都市地球環境部長
削減量口座簿の口座開設資格の設定は、制度を安定的に運用していく上で重要なものであると認識しております。
今後、制度の詳細を決定していく上でも、安全に取引ができ、かつ投機防止策としても機能するように、国内外の事例も参考にいたしまして検討してまいります。
〇吉田委員
次に、制度の広域化ということに関して、我が党の代表質問に対して、知事からは、都の施策を全国に向け発信していく、既に埼玉県においても排出量取引制度を導入し、都と連携していくことを検討していると聞いているとの答弁がございました。
そこで、全国に取り組みを求めていく第一歩として、埼玉県の検討の状況、そして都として埼玉県との連携についてお伺いをいたします。
〇大野都市地球環境部長
埼玉県では、今月十六日に開催されました地球温暖化対策の検討に関する専門委員会の場におきまして、今後の地球温暖化対策の基本的方向性の素案が提出されております。この中で、埼玉県独自の排出量取引制度の導入の検討がうたわれておりまして、検討に当たっては、近隣自治体との広域的な実施が可能となる制度づくりに配慮するとされております。
埼玉県の制度の内容の詳細は、現時点では不明でございますけれども、伺っている話では、罰則は設けないものの、対象事業所への排出基準は設けるということでございます。
埼玉県の事務局とは情報交換を始めておりますけれども、埼玉県といたしましても、東京都の制度と連携したいという意向を伺っております。
都といたしましては、まずは東京でしっかりと機能する制度を構築するのが最も重要な課題と認識しておりますが、埼玉県との連携の方法につきましても検討して、協議をしてまいりたいと思っております。
〇吉田委員
ぜひやっていただければと思います。
本年四月に開催されました八都県市首脳の会議におきましても、地球温暖化防止に向けて効果的な対策に今後共同して取り組んでいくことを決定したということでございますので、ぜひこの本制度も広がっていくようにお取り組みを頑張っていただきたいと思います。
そして、ここまで大規模事業所への削減義務と排出量取引について伺ってまいりましたが、中小規模事業所の地球温暖化対策報告書の届け出制度については、代表、一般質問でもほとんど取り上げられていなかったようでありますので、幾つか質問をさせていただき、確認をいたしたいと思います。
まず、この中小規模事業所の届け出制度は、全く新しい制度として創設されるものであります。仕組みそのものは複雑ではありませんが、確認の意味も含めて、本制度の趣旨、ねらいについて改めてお伺いをいたします。
〇大野都市地球環境部長
この届け出制度は、都内で事業活動を行う中小規模事業所に対しまして、温暖化ガス排出量の把握や地球温暖化対策の取り組みを推進していくとともに、その排出量や取り組み状況等を地球温暖化対策報告書に記載し、任意に提出をしていただくものでございます。
都は、中小規模事業所が取り組みやすい省エネ対策を標準化して提示をいたしまして、この標準的な省エネ対策を毎年順次追加していくということによりまして、削減対策のレベルアップを促していきたいと考えております。
さらに、都内に多数の中小規模事業所を設置する企業等につきましては、本社などで取りまとめての届け出と公表を義務づけるものでございます。
〇吉田委員
まず、みずからの二酸化炭素の排出量を把握し、標準的な取り組みを進めてもらうというのがこの制度のねらいであるということは改めて確認ができました。こういう趣旨で創設をする制度であれば、できる限り多くの事業者の方に届け出をしていただいて、取り組みを進めていただく必要があると思います。
今回の制度では、多数の事業所を設置する企業に対して届け出を義務づける、そういう制度だと認識しておりますが、多くの事業所に届け出てもらうためには、条例の答申にありました三千キロリットル以上ではなくて、削減義務対象の事業所の場合と同様に、千五百キロリットル以上とすれば、より広い範囲の事業所に届け出を求められるのではないかと考えるわけであります。
しかし、一方では全く新たな制度ということもあり、届け出義務対象となる企業には、新たな事務、負担が生じることでもありますので、実際に運用を進めていく中で、制度の改善を図りつつ、対象を拡大していくというやり方も必要なのだろうなと考えます。
こうした観点から、義務対象の規模は、当初は高目に設定してスタートするとしても、任意提出の状況なども勘案しながら、段階的にでも、規模要件は見直して、より多くの事業所に取り組んでいただけるようにしていくのがよいのではないか。これは意見として申し上げます。
そして、他方、この制度のまた別の大きなねらいでございます義務対象でない中小企業の事業者の方に、どうやって任意の提出をしていただくかという点が非常に重要な課題だと思います。
中小企業の方にとっては、日々の事業活動の中でこうした取り組みを行うのは、やはりなかなか大変なのが実情だと思います。やはり、届け出たことで何かメリットがある、そういうものがなければ、実際に届け出をするというアクションをしていただくのは難しいのではないかと思います。
そこで、現時点で任意に届け出た事業所に対して、何かインセンティブとなるような仕組みが考えられているのか、お伺いをいたします。
〇大野都市地球環境部長
本制度は、省エネの取り組みがおくれております中小規模事業所がみずからのCO2排出量の把握と省エネ対策が推進されるように創設するものでございまして、多数の任意の提出が行われることを期待しております。
この任意の届け出事業者につきましても、これは任意の届け出事業者の方は公表は義務ではございませんが、東京都のホームページでは公表を想定しておりますので、温暖化対策に積極的に取り組む事業所としてPRする効果があるものと考えております。
〇吉田委員
わかりました。確かに、都のホームページで公表されるということは、事業者にとっても広く環境への取り組みが認知されるということになりますので、一定のインセンティブにはなると思います。
しかし、中小企業の事業主さんなどにとっては、例えば本年度から都が指定する省エネ診断に基づいて設備投資等を図る事業者の方には低利融資が行われるということでありますが、届け出の提出事業者に対しても何かこのような支援策があれば、非常に大きなインセンティブになるというふうに考えます。
また、例えばエコ事業所というような形での登録や認証ということを行って、証書を発行する。そういうことをやって、手にとって見える、形のあるもの、こういうものを差し上げる。そういうことがあると、事業主さんにとって非常に励みになるというようなことを、私も地元を歩き回ったりして、いろいろな方と接していて、感じるわけであります。
都として、ぜひホームページでの公表にとどまらず、中小企業の皆様の届け出を促すようなインセンティブをさらに検討していただいて、せっかくの制度の取り組みの拡大を図っていただきたいと思うわけですが、ご見解を伺います。
〇大野都市地球環境部長
本会議でもご答弁申し上げましたが、中小企業の皆さんに省エネに取り組んでいただくためのいろんな策については今後検討していくということでございまして、報告書の提出を促すことができるように、さまざまな方策について検討してまいりたいと思っております。
〇吉田委員
ぜひお願いします。
そして、制度の運用が始まれば、義務対象となる事業所数に任意に届け出ていただける方を含めると、数万単位の事業所になると思われます。仮に報告書が簡易なものであったとしても、その届け出の受け付け事務などは非常に膨大なものになることが予想されます。
届け出事業者の利便性を確保することはもちろんのこと、都においても着実な制度運用を図るとともに、効率的に政策の目的を達成し、業務を運営できるようにするために、例えば建築確認申請では、民間の審査機関で受け付けがごく当たり前に行われているわけであります。
本制度の届け出の受け付けにつきましても、どのような機関が適しているのかなど、さまざまな検討が必要だろうとは思いますけれども、こうした面でも工夫を凝らしていただいて、いろいろ民間の力を生かすというか、そういうことをご検討いただいて、中小規模事業所の二酸化炭素の排出の削減に向けた取り組みをぜひ推進をしていただきたいと思います。
とにかく、この排出量の取引を初め、今回の条例案、非常に東京の取り組み、大変に進むものと期待をしておりますが、しっかりと進めていただくように改めてお願いをいたしまして、質問を終わります。